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2008年1月25日 (金)

第5話 侠客鬼瓦興業

アジアチャンピオンのもと、6ミリ4ミリのみごとなパンチパーマ頭に変身させられてしまった僕は、ショックあまり、涙を流すことすら出来ず、ただ呆然と銀二さんの後を歩いていた…

「あっ、あのー銀二さん…、一つだけ聞きたいことが?…」

「あん、なんだ?」

銀二さんはタバコに火をつけながら振り返った

「あ、あのー、僕うっかり面接の時、仕事の内容聞き忘れてしまったんですが、鬼瓦興業の仕事っていったい…」

僕は思い切って銀二さんに聞いてみた、

「うちの仕事…?何いてっんのお前……ぶっ!」

「ぷっ、ぷわーははははっははははっはっはっはは!」

銀二さんは僕を見ながら、急に大笑いを始め

「わりいわりい、あんまりにもお前のパンチパーマ姿が面白かったからよー、ぷひゃひゃひゃ、腹いてー腹いてー」

質問に答えられる状態では無くなってしまった…、僕はしかたなく笑いころげる銀二さんのあとを、とぼとぼと歩き続け…やがて、気が付くと僕たちは会社の入り口に立ってたのだった…

 

「おせえぞ銀、早く仕事の支度しろよ!」

とつぜん会社の中庭から大きな声が聞こえてきた、見るとそこには、公園で出会った刺青の岩さん、それに鉄という岩さんにグローブで殴られていた、金髪の男、他に数人のガラの悪そうな人たちが、恐い顔で立っていた 

「すんません岩さん、親父の言いつけで、この新入りアジアチャンピオンのとこ連れて行ってたんすよ…」

銀二さんはそう言いながら僕を見ると、またしてもゲラゲラ笑い始めてしまった

「新入り?…あれー!お前さっきのうんこの兄ちゃんじゃねえか!…何だうちの新人だったのか…」

「はっ、はい…」

「それにしても、えらい変身したなー、はははは…」

刺青の岩さんは僕を指差してうれしそうに笑った…続いて今度は、鉄という金髪男が、不気味な顔で近寄って来ると、鋭い目つきで僕を睨んできた

「なんだよ…、お、お、お前…、うちの新人だったんかよー」

「あっ、はい、そうです…」

僕は恐怖でガチガチに固りながら必死に答えた…そんな時、鉄という男の後ろから、一人のかっこいい男の人が現われ、鉄の頭をゴンと軽くこずいた。

「こら鉄、なーに新人君にガンくれてやがんだ!ばーか…」

まるで映画の二枚目俳優のようなその男の人は、優しい笑顔で僕に近寄ってきてくれた

 

「ほー、お前か、求人案内で面接に来た、お兄ちゃんてのは?」

「あ…はい!」

「名前は?」

「一条吉宗です!」

その二枚目俳優のような男の人は、たんたんと僕に話しかけてきた。

「ほー、いい名前じゃねえか、俺は高倉だ、よろしくな!、仕事はちょっときついけど、これから頑張れよ!」

そういいながら高倉という人は僕の肩をぽんと叩いた、僕は何となくそのやさしい笑顔に救われて、少しだけ緊張から解かれた思いがした…。

「おーいお前ら、これから一緒に働く、一条吉宗だ!しっかり面倒見てやれよ!」

「へーい」 「ほーい」 「あーいよろしくー」

岩さんをはじめ恐い顔の人たちは、いっせいに僕に声をかけてくれた。

「あ、ども、ども…」

僕はパンチパーマ頭をぽりぽりかきながら、こわばった顔で軽く会釈した…、その時だった今まで優しい笑顔を見せていた高倉さんが、急に赤鬼のような形相に変身して僕を睨みすえてきたのだ…

Takakura

「この野郎~新入り、なーんだその挨拶のしかたは~!」

「ひ、ひぇーーーー!?」

あまりの急変ぶりと、その恐ろしい形相に僕は、思わず震えあがってしまった…

「すっ、すいません…すいません…」

「銀~、てめえ新入りに挨拶の仕方も教えなかったのか、この野郎!」

高倉さんはそういいながら銀二を睨みすえた。

「す、すいません頭…」

いままで気さくに笑っていた銀二さんは、その後、急に恐い顔になって、僕のそばにやってきた

「こら、吉宗、俺のやるとおり見てろ…」

そういうと銀二さんは、急に足をがばっと、ガニ股に開き、軽く前かがみになると、両膝の上にばんっと手を置いた、そして相手から鋭い目をはなざず、そのまま頭をさげると

「おはようございやーす」

今までとは打って変わったドスの聞いた声で、みんなに挨拶をした、そしてその体勢のまま、横目で僕を睨むと小声で

「何ぼーっとしてんだこら、お前も同じように挨拶しろ!…」

「あ!?…はっ、はい!」

僕は一生懸命なれないガニ股になると、見よう見真似で銀二さんと同じ格好で挨拶をした

「お…おはようございあまさまさまーあす」

僕は恐さからあわてて、思わずこんな挨拶をしてしまったのだった

 

「なんだー、そのわけの分からん挨拶は!それに声が小さい声がー!」

高倉さんは僕の顔の間近に、その鬼のような顔を突きつけてきた。」

 

「お、おはようございまーーーーす!」

僕はありったけの勇気をふりしぼって、大きな声でみんなに挨拶をした

高倉さんはそんな僕をしばらく腕組みしながら、恐い顔で見つめていた…

僕はがにまた姿のまま、そーっと、恐る恐るあたりを見渡し、そして高倉さんの顔をチラッと覗いた…、すると、今まであんなに恐ろしい形相だった高倉さんの顔が、最初にであったときのやさしい顔に戻っていたのだった

「やればできるじゃねえか、やれば…」

高倉さんはそう言いながら、僕のパンチパーマをぽんと軽くたたくと、

「おう、お前ら準備できたら行くぞー」

そう言いながら、鉄から白衣を受け取り、スバっとかっこよく羽織り、さっそうと肩で風を切りながら外にでていった…

 

「ふー、びっくりしたか吉宗、高倉さんは昔から挨拶だけはうるさいからよー」

銀二さんはその手に、一着の白い服を持って、僕の前にやさしい笑顔で現れた

「ほい仕事仕事、そんなスーツ姿じゃ仕事にならねーだろ…、早くこいつに着がえな!」

「着がえ?」

「まあ、うちのユニフォームってやつだ、ほれ早く着替えろ、今度は岩さんにどやされるぞ…」

僕は銀二さんから白いユニフォームを受け取ると、奥の倉庫でごそごそ着がえを始めた…、しかし、着がえ終わった僕は、思わず自分の姿に悶絶してしまった

「えーーーーーーーーーーーーー!?」

「銀二さん!銀二さん!な、なんですかこの格好はー!?」

気が付くと僕は、白いよれよれの襟のないダボシャツに、白いズボンおまけにお腹には真っ黒い腹巻、それはまるで、「男はつらいよ」で同じみ、フウテンの寅さんそのものという格好だったのだ…。

「銀二さん、銀二さん、銀二さん…」

僕は、自分の姿を指さしながら、銀二さんの周りをピョンピョンと飛び続けた

「おー、なかなか似合ってんじゃねえか、やっぱパンチパーマにはそのかっこだな…」

銀二さんは笑いながらそう言うと、僕に真新しいわらで出来た時代劇でよく見かける、ぞうりを差し出した

「なんですか?そのぞうり?」

「ぞうり、雪駄ってだよ、セッタ…ダボシャツに皮靴じゃカッコつかねーだろ、ほら…」

僕はしぶしぶそのセッタというゾウリに履き替えると、ちりちりのパンチパーマ頭に手をやりながら、目に涙をいっぱいためて小さな声でつぶやいた 

「な、何なんだー、この頭といい、このユニフォームといい…いったいこの会社は、なんなんだーーーー!?」

 

「おおおお!よーく似合っとる、似合っとるぞー、若人よーーー!」

僕の背後からまたしても、聞き覚えのある大きな声が…振りかえるとそこには思った通り、満面の笑顔の社長の姿があったのだった

「うん、良い!良いぞー若人!やはり男は短髪、パンチパーマが一番いいぞー、似あっとる似あっとる!がーはははははははは!」

社長はまるで僕の頭を、ぺろっと一飲み出来るくらいの大きな口を開いて、うれしそうに、大笑いを続けていた…、僕は思い切ってそんな社長に訪ねた

「あのー、社長さん、一つだけ、伺っていいですか?…」

「んー?なんじゃ、若人よー」

「あのー、求人案内には、この会社、(子供達に夢と希望を与える会社)、そう書いてあったんですけど、いったいどんな仕事の会社なんですか?」

「なんじゃー!お前、知らんでうちに入ったのか?若人よー」

「は…はい…」

社長はきょとんとした顔で僕を見たが

「まあ良い、まあ良い、男なら仕事の中身なんぞ気にしないで面接に来る、そのくらいどーんと構えてないとなー、がはははは…」

高らかに笑い続けた

 

「はあ、はははは」 

仕方なく僕もこわばった顔で社長と一緒に笑い続けた、そしてしばらくしてもう一度、社長に小声でたずねた

「で、あの仕事の内容って…?」 

「的屋だよ…」 

「てきや?…」

「そう的屋…」

「て、てきや?…」

「おう、祭り、縁日で子供達に夢と希望を与え続ける、あの的屋だー、的屋!」

社長は僕の頭を、ぽんぽんうれしそうにたたきながら、大声でそう叫び続けた…

 

「的屋…、的屋…、あ、あの的屋!?…」

「そうだ的屋だ、あの的屋、」

「的屋…、的屋…、的屋…、やっぱりあの的屋?…」

僕はショックのあまり、社長と共に、何度も何度もそのテキヤという言葉を繰り返し続けたのだった…

武州多摩でも名のあるテキヤ一家、侠客鬼瓦興業…

こうして僕は、そんなテキヤ稼業に見事就職…、その後、さらなる恐ろしい出来事を、乗り越えながら、この稼業で男を磨いて行く事になろうとは…、この時はまだ知るよしもなかったのだった…

続き
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