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2008年3月21日 (金)

第24話 龍虎対決

憧れのめぐみちゃんとの恋が成就したその日に、不幸にも僕の人生を終結させる最大のピンチが襲い掛かかろうとは、、、、

「もう、、だめだ、、、、」

怒りがピークに達し、一言そう呟いたハゲ虎は、胸の中から38口径の銀色に輝く鉄の物体をを取り出した

「、、ぴ、、ぴ、、ピストル!?、、」

一瞬にして僕の思考回路は恐怖で停止状態となってしまった

 

「どけ、、、めぐみ、、、、、」

ハゲ虎は、不気味な声でめぐみちゃんに呟いた

めぐみちゃんは僕の表情から、異変を察知すると、恐る恐る後ろを振り返った 

「!?」

そこには無言でピストルの銃口を、僕に合わせているハゲ虎の姿があったのだ

 

「ぱ、、、、パパー、何してるのー!?」

めぐみちゃんは大慌てで、叫ぶと慌てて僕とハゲ虎の間をその体でさえぎった

 

「ど、、、、どけーめぐみー!!その小僧、射殺したるんだー、どけー!!」

ハゲ虎は血走った目でそう叫んだ

「どかないわよー!あ、あぶないからそんなものしまってよー!」

めぐみちゃんは大慌てでさけんでした、

 

人間は恐怖のピークに達すると、体から血の気が完全に失せてしまうのか、僕は青い顔を通り越して、まっ白いひな人形のような顔で金縛り状態にあっていた

「この小僧がー、テキヤ風情のチンピラの分際で、うちの大切な娘をたぶらかしよって、、、どけ、めぐみー!」

「吉宗くんはたぶらかしたんじゃない!真剣に心を打ち明けてくれたんだよー!、パパがなんて言おうと絶対にどかないからー!」

めぐみちゃんは、僕をかばいながら、必死になってハゲ虎に叫んだ、

僕は恐怖で成すすべもなく、二人の様子を見つめていた、、、 

 

と、そんなピンチの最中、聞き覚えのある大きな声が境内に響いてきた

「おーい、なんだー、この騒ぎはー」

僕はやっとの思いでその声の方を見た、

そこには義理と呼ばれる知り合いの葬儀から、戻ったばかりの親父さんが、黒服姿で立っていた

Oyaji

(お、、、、親父さん、、、、親父さん、、、、、)

僕は必死になって親父さんに助けを求めようとしたが、恐怖で声を出すことができなかった、そこへめぐみちゃんが、泣きながら叫んだ

「おじさんー、助けてパパが、吉宗くんのことを、、、、」

「パパ、、、、?」

親父さんは、めぐみちゃんの言葉を聞いて、ハゲ虎の方を見た

 

「何だ、誰かと思えば虎三じゃねえか、、、、、あらら、みつかっちゃったのか、めぐみちゃん、ははは」

ハゲ虎は僕に銃口を向けたまま、親父さんの方に顔だけ向けて怒りをあらわにした

「やい鬼辰ー!」

「、、、、、ん?」

「貴様、またうちのめぐみを、やくざな仕事にさそいやがったなー、この野郎!」

親父さんは平然とした顔で、笑いながらハゲ虎に答えた

「さそって何が悪い、それにめぐちゃんがバイトしてくれると、売上が伸びるからなー、固いこというな、固いこと、はははは」

親父さんは笑いながら扇子をパタパタさせて、今度はめぐみちゃんの方を見た

「めぐみちゃんだって、もうバイトの一つもしたって良い年ごろだろうが、なー、めぐみちゃん」

そう言いながら親父さんはめぐみちゃんに微笑んだ、

めぐみちゃんは親父さんにむかって、うんうんと一生懸命うなずいた

「鬼辰ー、バイトが悪いなんて言ってるんじゃねえー!、てめえのところみたいな、やくざな仕事をすることが問題なんだー、バカ野郎!」

 

「まったく昔から堅い男だなーお前は、そんな事だから禿げるんだ、、、」

「はげ、、、、!この野郎、人が気にしていることを、、、」

ハゲ虎はむっとした顔で、親父さんに振り返った

「うわっ!?」

おやじさんはそこで初めてハゲ虎の手にあるピストルに気がついた

「何だお前、そんな物騒なものチャカつかせてやがって、危ないからしまえ、こらー!!」

「理由はお前の所のチンピラに聞け!このクソガキが、こともあろうにうちのめぐみに、ちょっかい出しやがったんだ!」

ハゲ虎はそう言いながら思い出したように再び僕に銃口を向けた

 

「ちょっかい?吉宗がか、、、?」

親父さんは驚いた顔で僕を見つめた

 

「おじさん、違います!、、、吉宗くんは真剣に私のことを好きだって、愛してるって言ってくれたんです!」

めぐみちゃんは涙を流しながら僕の腕をつかんで、親父さんに訴えた

Sukinano_2

「何ー、こいつが愛してるってーーーー!?」

親父さんの驚きで目をぱちくりしながら再び僕を見つめた、

 

同時にあたりににいた的屋の人たちから、驚きの声が起こりはじめた 

「閻魔のハゲ虎の娘に愛してるっていったのか、あの兄ちゃんは、、」

「おとなしい顔して大した根性してやがるなー、、、、、」

そんなテキヤの人たちの声を嬉しそうに聞いた鉄が、大声で叫んだ

「この不死身の鉄さまが、兄貴と認めた男ですよー、あの一条吉宗って男は!」

 

「俺との勝負の時も、一歩も引かなかったからな、あいつは、、、、一条吉宗ってのか」

鉄の後ろでスキンヘッドの熊井さんが呟いた

 

「一条、吉宗か、、、、、」

「一条吉宗、、、、」

「一条吉宗、、」

ガラの悪いあたりの人たちの間で、知らぬ間に僕の名前がとびかっていた、、、

僕は思いかけないことで、その筋の世界で名前を轟かせてしまっていたのだった、、、

 

そんな中、冷静な目をした、鬼瓦興業の若頭、高倉さんが、腕を組んで見ていた追島さんにささやいた

「やばいなー、ハゲ虎の旦那、、、、」

「そうっすね、若頭、、、」

追島さんはそう返事を返しながらあたり見渡した、そこにはこの白昼の事件におびえる群衆の顔があった

「たとえどんな理由にせよ、一般大衆の前で鉄砲(チャカ)なんぞ、ちらつかせちまったんすからね、捜査四課の鬼刑事、閻魔のハゲ虎も終わりっすね、、、」

追島さんは笑いながら高倉さんを見つめた、しかし高倉さんは、眉間にしわを寄せながら何かをじっと考え込んでいた

 

「旦那には日ごろ恨みこそあるが、めぐみちゃんの親父さんだからな、、、、」

「それじゃ、若頭、、?」 

「それにハゲ虎と親父さんの関係もあることだ、、、、ここは何とかせなならんだろ、」、

高倉さんは冷静な目で、ハゲ虎を見つめていたが、急に顔を真っ赤にして吹き出して笑った、、、

「ぷ、、、ぷうーーーーー!!それにしてもあのおっさん、、、、なんてかっこ、、、、」

高倉さんにつられて追島さんも、こらえきれず笑ってしまっていた

 

 

そんな高倉さんたちの心配をよそに、ハゲ虎は怒りに満ちた顔で僕に銃口を向けながら親父さんを睨み据えていた、

親父さんは、全く動じず冷静な顔で、僕とめぐみちゃんを見ながらつぶやいた

「ほう、、、、ただのおとなしい兄ちゃんと思っていた若人が、めぐちゃんに愛の告白とは、、、これは驚いたもんだ、、、」

親父さんは笑いながら手にしていた扇子を開くとパタパタ仰いでいた

 

「笑いごとじゃねー、鬼辰ー!、てめえんところのチンピラが、とんでもねえ不祥事おこしたんだぞ、こらー」

ハゲ虎は目を血走らせながら親父さんに食ってかかった、しかし親父さんはまったくあわてた様子を見せず静かにハゲ虎にささやいた

 

「不祥事を起こしちまってるのは、お前の方だろうが、冷静にまわりを見てみろ、、、」

親父さんは小声でハゲ虎にささやきながら、持っていた扇子で周りにいるギャラリーを指した、そこには恐怖で怯えた顔で境内の物陰にかくれている、お祭り客の姿があったのだ

 

「う!?」

ハゲ虎はそこではじめて、めぐみちゃんのことで冷静さを失った結果の失態に気がついた

 

「懲戒免職じゃ、すまねえぞ、、、お前、、、」

親父さんはハゲ虎だけに聞こえるくらいの小さな声で眉間にしわを寄せながらそうささやいた、 

「現職刑事、白昼のお祭りでピストル騒ぎ、、、、てな見出しで新聞も一面トップだ、、、逮捕まであるだろうな、、」

親父さんは笑いながらつぶやいた、

 

「パパが逮捕、、、!?」

めぐみちゃんも驚いて目を丸くしていた

 

「うぐ、、、、、、!」 

冷静さを取り戻したハゲ虎はピストルを持ったまま固まっていた、

 

そんなハゲ虎に対して今度は笑いながら親父さんが声をかけた、、、、

「ところで虎三、、、お前なんでそんなかっこしてるんだ?、、、、、」

親父さんはそう言いながら、我慢していた笑いを抑えきれず、ぶーっと噴き出して、大声で腹を抱えて笑いだした、、、

 

「、、、、?何だー?何がおかしいんだ鬼辰ー?」

ハゲ虎は訳の解らない顔で、親父さんの笑い顔に怒りをあらわにしていた

親父さんはお腹を押さえながら、ハゲ虎の股間を指さした、

 

「何!?、、、!?」 

気がつくとハゲ虎は、僕にズボンを下ろされたままのフルチン姿で、ピストルを持って叫んでいたのだった、

 

「どわーーー!?しまったーーーー!!」

ハゲ虎は真っ赤になって股間を抑えた、、、

 

「おーい、いたぞーーーーーー!」

そんな僕たちのもとに大きな声が聞こえてきた、、、、

振り返るとそこには、高倉さんと追島さんがマスクに白衣姿のドクターといった井出たちで、走り寄ってきていた、、、

Aniki_2 

 「まったく、病院を抜け出してどこへ行ってたかと思ったら、こんなお祭りに来ていたんだね、虎三じいさん、、、、」

追島さんはそういいながら、ハゲ虎の腕をつかんだ、

 

「すごいおもちゃだね、、、、さてはそこの、くじ引きであたったんだね、、、よかったねー虎三じいさん、大好きな、太陽にほえろ ごっこが出来たんだね、、」

高倉さんは近くにあった、くじ引きの露店に飾ってある、「一等賞、モデルガン」と書かれたはり紙を指さしながら、ハゲ虎の手からピストルを奪い取ると、ハゲ虎のスーツを広げて胸のホルダーにそっと収めた

「あ~、あ~!まったく人前で大事なものだしちゃって、まったくこまったじいさんだ、、、さあ、いっしょに、病院に帰ろうねー、」

追島さんはそう言いながらハゲ虎の体をかかえあげた、

「何しやがるコラー、人をもうろく爺さんみたいにー、この野郎はなせー、」

ハゲ虎の抵抗もさすがに追島さんの快力にはかなわなかった、ハゲ虎はそのまま成すすべもなく神社の外まで連れ出されてしまった

 

「いやー、皆様お騒がせしましたー、」

高倉さんは、周りの人たちにそう言いながら叫ぶと、マスクの中から親父さんに目配せをした、そんな高倉さんに対して、親父さんは軽く「うん」とうなずいて見せた

 

「た、高倉さんありがとうございます、、、、、」

めぐみちゃんは、そっと高倉さんに声をかけると、僕を振り返った

「ごめんね、、、吉宗くん、、私のためにこんな怖い目にあわせてしまって、、、、」

Namida

めぐみちゃんは目に涙を浮かべながら、悲しそうな顔でそうささやくと、親父さんに頭を下げて、高倉さんと一緒に僕の前から走り去った、、、、 

「、、、、、」 

僕はそんなめぐみちゃんの後ろ姿を、ボー然と見つめていた、、、

 

ドン!ドン!ドン!

遠くから太鼓の音が響きはじめた、

「おー、宮だしだぞー、」

誰かのそんな叫び声とともに、あたりにいた人たちは、ざわめきながら散っていった 

僕は一人ポツンと、石畳の上にすわりこんでいた

 

「おい若人、、、」

そんな僕に親父さんがそっと声をかけてきた

 

「お、、、親父しゃん、、、うぐうぐうーーーーー」

僕は親父さんの顔を見たとたん、今までの張りつめた緊張から解放されたのか、声を出して泣きだしてしまった

そんな僕に親父さんは静かにつぶやいた

 

「まさか、お前がめぐみちゃんに愛の告白をなー、、、」

「、、、、、、、」

僕は恥ずかしそうに頭をかきながら、涙顔でうなずいた、親父さんは真顔になって僕を見た

「ただ、一つだけ聞かせてもらうが、おまえ遊びのつもりじゃねーだろうな、、、、」 

僕は親父さんのその言葉に慌てて首を振った、、、

親父さんはそんな僕の目を今までとは打って変わった、迫力のある真剣な目で見つめると、嬉しそうに笑いながら、僕の背中を叩いた

「お前の気持はわかった、、、!、」

「、、、、、」

 

「だがな、好きな女をものにするには、命がけの根性が必要だ、、、まあ、俺もうちの母ちゃんと一緒になるときは苦労したもんだが、、、ははは、」

親父さんはそう言いながら、遠くを見つめて笑っていた、

 

「根性、、、、ですか、、、」

 

僕はそんな親父さんを見つめながら、つぶやいた

 

「おう、根性だ、、、だが、吉宗、お前が惚れた女は、今ので分かったとおり、並の根性だけじゃ物にはできねえぞ、、、、」

親父さんは、そう言うと澄んだ目で、僕を見た

 

「お、、、、親父さん、、、、」

僕はいつのまにか、そんな親父さんの懐の深いあたたかい目が大好きになっていた

そしてその親父さんの目を見ていると、僕の心には不思議な勇気が湧いてくるのだった

 

「男になれ、、、吉宗、、、男になってあのバカ親父をねじ伏せて見ろ、、、」

親父さんはそうつぶやくと、僕の肩をやさしくポンと叩いて、去って行った

 

(男になれ、、、、、、)

人生で初めて言われた、そんな言葉を、僕はじーっとかみしめていた、、、、

そして静かに目を閉じると、別れぎわに見せためぐみちゃんの、涙を浮かべた悲しい顔がよみがえってきた、、、

「めぐみちゃん、、、、、、、」 

「、、男になる、、、、、」

 

僕はそう言いながら立ち上がった 

「僕は、男になる、、、、!!」

「、、、、男になる、、、、、、!!」 

親父さんの背中を見つめながら、僕は何度も何度もそう呟いていたのだった

続き
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