第26話 吉宗くん三下修行
関東のテキヤ一家、鬼瓦興業へ就職して3日目の朝、僕はなれない雑巾がけにせっせと励んでいた、僕の隣には、どういう訳か僕に心酔しきって、弟分と化してしまった金髪の鉄、そして一見こわもてだが、とてもやさしい銀二さんが、一緒に雑巾がけをしていた
「こらー!お前ら、気合入れて拭けよー気合入れてー!!」
鬼瓦興業の鬼軍曹、追島さんが片手に伝家の宝刀、高尾山の刻印入り孫の手を振り回しながら怒鳴り散らしていた
僕は、そのゴリラ男追島さんに怯えながら、必死になって机の雑巾がけをしていた
「コラー新入りー、心が入ってねーぞ、心がー!」
追島さんはそう怒鳴ると、もっていた孫の手で僕のお尻をひと叩きしてきた
「ひえーーー!」
「ひえーじゃねー!ひえーじゃ、、、さっきから何べんも言ってるだろーが、心こめて拭くんだよー、心こめてー!」
「は、はい、、、」
僕は力いっぱい親父さんの机を拭いた
「力いれりゃいいってもんじゃねーんだ、この野郎、心だ心ー!」
追島さんは再び怒鳴りながら僕のお尻をその大きな足で蹴り飛ばした、、、、
「痛ーーー、すいません!!」
そんな姿を遠めに見ながら銀二さんが鉄にささやいた、、、、
「何だか荒れてるなー追島の兄貴、、、、あいつ何かしでかしたのか?」
「さあ、、夕べ部屋で何かあったんすかね、、、、」
二人は雑巾をしぼりながら横目で僕をみていた
追島さんはそんな二人を見ると、持っていた孫の手を振るまわして怒鳴り飛ばした
「何べちゃくちゃしゃべってやがんだー、朝飯までにまだまだやることはたんまりあるんだからなー!」
「はい!」
銀二さんと鉄は慌てて返事をかえすと、せっせとソファーの雑巾がけをはじめた、追島さんはしばらく銀二さんたちを見ていたが、再び恐い顔で僕を睨みながら怒鳴ってきた
「いいかこら新入り、お前みたいな三下相手に、俺のような立派な、お兄いさんが直接指導してやってんだ、感謝しろよー感謝ー!」
「は、、はい!」
僕は大声で返事しながら机の上をせっせと磨いた、追島さんはそんな僕の姿を間近で、目をぎらぎらさせながら眺めていた、僕は緊張のあまり生きた心地がせず、ただ一生懸命机を拭きつづけていた
「いいか新入りー、物には心がある!雑巾がけってのは、一つ一つの物に対して、ありがてーっていう感謝の心をこめてやらせてもらう、それが大切なんだー、」
「は、、、はい!」
「こらー銀二ー、鉄ー、お前らもそのこと忘れんじゃねーぞ!!」
「はい、、」「、、、はい、、」
追島さんはそれからしばらくの間、孫の手を片手に僕達の掃除姿を監督していたが、親父さんの呼び出しをうけて、後のことを銀二さんにたくして事務所から出て行った。
銀二さんは事務所のドアをじーっと見つめながら雑巾がけをしていたが、追島さんが完全にいなくなったのを確認すると、バケツに雑巾を掘り込んで、だらっとソファーに腰掛けた
「はーい、休憩、休憩ー、鬼のいねえ間に一服だー」
そういいながら銀二さんは胸からタバコを取り出し火をつけた
「吉宗ー、お前も休め休めー」
「え、、でも追島さんが、、、、」
「固いこと言ってねーで、いいから休めよ、今日は夜から川崎の仕事(バイ)が入ってんだぞ、朝早くから気合入れすぎてたんじゃ一日もたねえっての、、、」
銀二さんは、タバコをふーっとふかしながら笑った
僕は事務所の入り口をちらっと確認して、ソファーの前にある河童ような置物の横に腰をおろして、おそるおそりその姿をながめた
木彫りのその置物は、こんもりと盛り上がったハゲ頭にとんがった口、葉っぱの洋服をまとって手には稲穂をもちながら、すさまじい形相でこっちを見つめていた
「銀二さん、前から気になってたんですけど、この河童みたいなの何ですか?」
「馬鹿、河童なんて言っちゃだめだよお前、これは神農さんっていって、俺たちテキヤの守り神だぞ、」
銀二さんはソファーにだらっと腰を下ろしながら眠そうに答えた
「えー、これが守り神?、、、、」
僕は神農さんという置物をまじまじと眺めた、しかしどう見てもそれは神様というよりも、葉っぱの洋服をまとった河童の化け物にしか見れなかった。
「どう見ても河童ですよねーこれ、、、」
「馬鹿、そんなこと追島の兄貴の前で、間違っても言うなよ、兄貴は熱烈な神農さんの崇拝者だから、また恐怖の孫の手が飛んでくるからな」
銀二さんはそういいながら、事務所の入り口をチェックした
「まったく追島の兄貴ときたら、朝から気合はいりまくっちまって、馬力があり過ぎなんだよな、いい加減にして貰いてえぜ、こっちは朝までこれと、これしまくって眠てえってのによー」
銀二さんは小指をつきたてながら、腰を振って見せた
「あの、これってまたあの女の子ですか、、、?」
僕は初日にあった茶髪の子を思い出しながらたずねた
「バーカ、あんな青くせえ女なんぞと朝までやってられるかっての、昨夜は駅まえのスナックの子でな、いやー色っぽい、いい女だったなー、、乳なんかこんなでかくてよー、、」
銀二さんは手のひらで大きな胸を表現しながら、鼻の下を伸ばしてにやけていた
僕は銀二さんのそんな話を聞いているうちに、今朝方見た夢の中の色っぽいめぐみちゃんを思い出してしまった。
(吉宗君、ちゅーして、、、て、めぐみちゃん、、可愛かったなー )
「おい、、おい吉宗、、、、」
「え、、、?」
「何、急ににやけながら、ぼーっとしてんだよ、おまけにまたチンポおっ立てて、、」
「え、、?、、あ、、、?、」
僕は真っ赤になりながら慌てて股間を手でかくした
「相変わらず元気いいなーお前、、、ははは、さては俺の話聞いて、めぐちゃんとエロいことするの考えてたんだろー、」
「、、、、、!?」
心の中をずばり言い当てられて、僕はその場で固まってしまった
「図星だな、、、、、ははは」
銀二さんはいたずらな笑顔で僕を指さした
「しかし昨日は驚いたな~、まさか電光石火の速技でめぐちゃんに愛の告白しちまうんだからよ、、、俺に負けず劣らず、お前もすみにおえけねーなー、はははは」
銀二さんはタバコにふかしながら、一瞬微笑んだが、何かを思い出したのか、ふっと真剣な顔にもどって僕を見た
「ただ、恐ろしいのは、ハゲ虎の旦那だな、、、おまえこれから大変だぞー”””」
「え、、、、、!?」
僕はその言葉で、忘れかけていたハゲ虎とのピストル騒動を思い出して青ざめてしまった。
「えって、、、大切な一人娘にちょっかい出された上に、公衆の面前であれだけの赤っ恥かかされたんだぞ、昨日は運よく親父さんと若頭が助けてくれたけど、このままお前、ただで済むわけねーだろ、、、、」
「や、、やっぱり、、、、、」
僕の頭の中でハゲ虎の恐ろしい顔が、どんどんふくらみ始めた、
「でも、めぐみちゃん、可愛いからなー、お前が惚れるのも分かるぜ、、、」
「、、、、ははは、」
僕は頭をポリポリ掻きながら照れ笑いを浮かべた、それと同時に今度は頭の中で、めぐみちゃんの澄み切った笑顔がよみがえってきた、そしてその笑顔のめぐみちゃんが心の中の僕にそっとささやいた
(私ね吉宗くんを見た瞬間、ふっと風が動くのを感じたの、)
(吉宗君、あなたが私の未来を変えてくれる人なんじゃないかって、、、)
それは、昨日のめぐみちゃんの言葉だった、僕は目をとじてその言葉をかみ締めているうちに、ハゲ虎の恐怖を忘れて、すっかり幸せな気分に浸りはじめていた、そして僕はぼそっとつぶやいた、
「めぐみちゃん僕は、僕はめぐみちゃんの未来を変える風になるよ、、、、」
「何の風になるの?」
「え、、!?」
「めぐみさんの変わりに風邪ひくっすか、、、さすが兄貴、、、男っすねー、」
「どわーー、しまったー!!」
気が付くと目の前には銀二さんと鉄がきょとんとした顔で僕を見ていた、幸せ気分に浸り過ぎた僕は彼らがいることを忘れて、うっかり恥ずかしい言葉を口ずさんでしまったのだった
「わーーー!わーーー!はずかしー、はずかしー!」
僕は動揺を紛らわすため、隣に立っていた神農さんの頭をポンポンたたきながら、照れ笑いを浮かべていた
「おい、、、馬鹿、、吉宗、、、吉宗ー!」
「え、、、、?」
気が付くとソファーに深く腰掛けていたはずの銀二さんが、急に雑巾をしぼりながら、あわてた顔でぼくに目配せをしていた
「え?え?」
僕はきょとんとした顔で、銀二さんの視線の先に目をやった
「うぐあーーーー!?」
そこには鬼の形相の追島さんが孫の手をしごきながら僕を睨みすえながら立っていたのだった
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