« 第97話 追島と吉宗君なら、きっと… | トップページ | 第99話 吉宗くんはたいした男… »

2009年10月24日 (土)

第98話 めぐみちゃんの悲しい叫び  

燃え上がる建物の周りでは、いつしか消防隊員による消化活動の準備が始まっていた…そんな中、西条さんは…

「えーい、放せコラ!!ワイも助けに行くんやー!!」

大声で怒鳴りながら中へ飛び込もうとしていたが、数名の消防隊員に押さえられ必死にもがいていた…

「危険ですから離れて…」

「放せコラー、放さんかーい!!」

「救出作業は私達にまかせて、とにかくこれ以上近づかないで!!」

「えーい、せやったら、早う助けださんかい!!」

西条さんはイライラしながら、その場から離れると、何を思ったか、一人建物の入り口近くへ向かって

「追島ーーーー!!吉宗ーーーーーーー!!」

必死に大声で叫びはじめた…

 

「西条さん!!」

「西条ー、聞いたぞ、中に追島たちがいるって…」

「銀二…それに熊ー!!」

西条さんは熊井さんたちを見ると

「大声や!…とにかくみんなで大声や、追島たちを呼ぶんや!!」

「大声で?西条どうして…」

「どうしても、こうしても…大声で呼ぶんや!!…えーから早うせい…」

必死に訴えると、険しい顔で肩口を押さえながら、その場にガクッと片ひざをついた… 

「西条さん、そんな傷をおった体で!…」

銀二さんが慌てて近づくと、西条さんはぐっと唇をかみしめ

「だっ、大丈夫や…こんな小便傷…うぐおおおおおおおーー!!」

うなり声を上げながら、立ち上がり建物の入り口へ向かって再び大声をはり上げた…

「うおおおおーーー、追島ーーーー!!吉宗ーーーー!!」

熊井さんはそんな西条さんの事を、しばらくじっと見ていたが、やがて眉間にしわを寄せると…

「よしっ!!……」

気合と共に胸に一杯の空気を吸い込み

「うおおお追島ーーーーーーーーーー!!」

建物の入り口めがけて、まるで恐竜のような雄たけびを上げた… 

「追島ーーーーーーー!吉宗ーーーーーーーー!!」

「追島さーーーーん!!」

「吉宗ーーーーーーーー!!」

いつしか燃え上がる建物の周りでは、追島さんと僕を呼ぶ沢山の声が響き渡っていたのだった…

 

 

その頃、追島さんは…

煙の立ち込める中、保育園の廊下を奥へ向かって突き進んでいた…

「ユキーーー!ユキーーーーーー!!」

記憶を頼りに、ユキちゃんがいた部屋を見つけると、

「ここだ!…確かこの扉の奥の部屋にユキがいたはず…」

そう言って扉を開いた、と、その瞬間だった…ブワーーー!!扉の中から巨大な炎が追島さんめがけて襲いかかってきた…

「うおーーーーっ!!」

追島さんは炎の勢いに吹き飛ばされ、廊下の壁に打ち付けられてしまった…

 

「ぐおっ…なっ、何てことだ…ひっ、火元はここだったのか……」

追島さんはしばらく呆然と、燃え上がるユキちゃんがいた部屋の入り口を見ていたが、突然鬼のような顔で立ち上がると…

「ユキ…ユキーーー!!」

炎の中へ飛び込もうと試みた…しかし、その勢いはすさまじく、追島さんは前に進む事が出来ず、その場に崩れ落ちるようにひざまづくと

「うおおおお!ユキーーーー!ユキーーーーー!!」

大声で泣き叫んだ…

 

と、その時だった…

  

「パパ…パパ……」

追島さんの耳に、どこかから、小さな声が聞こえてきた…

「はっ!?…」

追島さんは慌ててあたりを見渡した…、すると廊下の隅に詰まれたおもちゃ箱の陰に、震えながら、必死に毛布をかぶってうずくまっている、ユキちゃんの姿が…

「ユキー!!」

追島さんは顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶと、毛布の中で震えているユキちゃんを抱き起こした…

「パッ、パパ?…本当にパパなの…」

「ああ、パパだ…パパが助けに来たから…もう、大丈夫だ…大丈夫だ……」

「ユキ、怖かったよ…とっても、とっても怖かったんだよ…」

「うん、うん…よく頑張った、頑張ったなユキ…」

追島さんは毛布ごとユキちゃんを抱きかかえると、急ぎ煙の立ち込める廊下を、もと来た方へ走っていった…

  

「園長…園長…ユキは大丈夫だ…」

煙の立ち込める中、園長はうっすらと目を開けると、

「ユキちゃん…本当にユキちゃん!?…良かった…無事で…良かった…」

ポロポロと涙を流しながら、毛布の中でじっとしているユキちゃんを見た…やがて園長は追島さんをそっと見上げると…

「追島さん…申し訳ありません…本当に申し訳ありませんでした…」

泣きながら、謝り続けていた…

「あんたが謝ることじゃない…これは事故なんだから…」

園長は追島さん言葉に首を振ると…

「事故ではありません…これは…これは…」

よほど恐ろしい事があったのか、青ざめた顔で涙を流し続けていた…

「園長、その頭の傷といい…何か深いわけがあるんだな…」

園長は静かにうなずいた…

 

「とにかく、何があったか…話は後だ…、もうじきここも火の海だぞ、さあ、俺の背中に乗りなよ…」

追島さんは大きな背中を園長に向けた…しかし園長は、静かに首を横にふると 

「私はいいですから……追島さん…ユキちゃんを連れて早く逃げてください…」

優しい目で微笑んだ 

「何を言ってるんだ園長……」

「いえ、こんな状態の私がいては、迷惑が…、私のことは良いですから…早くユキちゃんを連れて行ってください…」

園長はそう言いながら、何かを思い出したようにポロポロと涙をこぼした… 

「馬鹿な事を言うな、さあ、早く俺の背中に…」

追島さんはユキちゃんを抱きかかえたままかがみこむと、再び園長に背中を向けた…

「もう、いいんです…私はいいんです…、お願いです、このままここで死なせて下さい…」

「死なせてくれって、あんた?…」

「これは私にできる罪の償いなんです…」

「償い?」

「私が、私がいけなかったから…研二さんが…」

園長はそういいながら、血の出ている額を押さえた…、追島さんはそんな園長をじっと見ていたが、急にムッと怖い顔をすると

「何が償いだ…、ふざけんじゃねえぞ、このババア!!…」

「…えっ!?」

突然の悪態に、園長は目を見開いた…追島さんは更に険しい顔で 

「とんでもねえ事情があったのは解るがよ…でもよ、あんた、教育者だろ…」

「はっ?」

「あんた保育園の園長だろ、だったらチビどもの教育者だろ?…」

「!?」

「子供が見てるんだぞ…、教育者だったら、どんな事があろうと、前向いて生きてる所、子供に見せるんじゃねえのかよ…」

「前を向いて?…」

園長は、ハッと驚いた…そこには毛布の中から不安な瞳で自分を見ている、ユキちゃんの姿があった…

 

「園長先生…一緒に行こう…、パパだったら力持ちだから、全然大丈夫だから…」

「ユキちゃん…」

「さあ、園長…ユキの言うとおりだ、早く俺の背中にのって…」

「……」

「さあ、早く…急がねえと、もうじき火の海だって言ってるだろ!さあ…」

「あっ、はい…」

園長はうなずくと、必死に追島さんの背中にしがみついた…

 

「うっしゃーーー!」

追島さんは一つ気合を入れると、背中に園長を背負い、胸にユキちゃんを抱えて、廊下を走り始めた…、と、その時だった…バリバリ、バチーン!!炎の影響か、大きな音と共に、今まで点灯していた廊下の蛍光灯が一斉に破裂して、あたりは真っ暗闇となってしまった、

「ぐおー、もう少しだってのに…」

真っ暗な世界に加え、時と共に濃くなっていく煙によって、追島さんたちは完全に視界を失ってしまったのだ…

「ぐお、まったく前が見えなくなっちまった…」

追島さんはユキちゃんと園長を抱えたまましばらく煙の中をさまよい、やがて低くかがみ込むと…

「やべえ、まじで出口が…わからねえ…」

思わず唇をかみしめた…と、その時だった…

 

「追島ーーーーーーーーー!追島ーーーーーーーーーー!」

 

何処からともなく自分を呼ぶ声が響いてきたのだ…

「追島さーんーー、追島さーーーーん!!」

追島さんは真っ暗闇の中、声の方角に耳を傾けた… 

「だっ、誰かが俺を…」

 

「追島ーーー、出口はこっちだーーーーーー!!」

「追島さーーーーん!!」

 

「こっちか!!…」

追島さんは声の方角を確認すると、

「園長、ユキ…しばらく息を止めていろ…」

二人にそう告げ、もうもうと煙の立ち上る声の方角に向かって、走りだした…

 

 

「追島ーーーー!追島ーーーーーーー!!」

「追島さーん、吉宗ーーーーーー!」

保育園の外では、西条さんに銀二さん、それに川竜一家の人たちが必死に大声を張り上げていた…

そしてお慶さんも、

「あなたーーーー!あなたーーーーーー!!」

泣きながら、追島さんの事をそう呼び続けていた…そんな時、めぐみちゃんが保育園の裏口付近の煙の中に、ふっと現れた大きな黒い影に気がついた…

「あっ、あれっ!?」

「えっ!…」

「お慶さん…ほら、あそこに黒い人影が!!…」

「あっ!?」

お慶さんはハッと目を見開いた、同時に周りの人だかりが、いっせいにどよめきたった…、

「あっ、あれは……!」

黒い影は煙の中を、どんどん外へと向かってくると、やがて

「ぶはぁーーーーーーーー!!」

と、その口から、真っ黒い煙を吐き出しながら、これまた真っ黒いススまみれの形相で、建物の中から飛び出して来た…

「ぶはーー、ぶはーーーーー!」

男はまるで機関車のように、黒い煙を口から吐き出しながら肩で息をし続けていた、そして、男のすす汚れた腕には毛布に包まった小さな女の子、背中には初老の女性が…そう、それはまさしく火事場から命がけで二人を救い出した、追島さんだったのだった…

98oijimasan  

「ユキ!?…」

お慶さんは追島さんに抱かれているユキちゃんに気づくと

「ユキーーーーーッ!!」

叫びながら追島さん達の元へ走っていた…

「ぶはー、ぶはー…はっ!?」

追島さんはお慶さんが近づいてくるのに気がつくと、ユキちゃんと園長を降ろし、慌てて二人から数歩遠ざかった…

「ユキー、ユキーーー!!、本当にユキなのね…良かったー、本当に良かったー!!」

お慶さんは一心不乱に毛布で包まれたユキちゃんを抱きしめた…そんな親子の再会にいつしか周りの人たちは、感動の拍手を送っていた…

追島さんはそんなユキちゃんとお慶さんの様子を、真っ黒い顔でじっと見つめていたが、やがて寂しげに後ろを向くと、そっとその場から立ち去ろうとした…お慶さんはそんな追島さんに気がつくと

「まっ、待ってーーー!」

あわてて叫んだ…

「待って…あなた…お願い、待って下さい…」

お慶さんは、追島さんの元に近づくと、ポロポロと涙をこぼしながら…

「ごめんなさい…あなた…、ごめんなさい…ごめんなさい…」

謝り続けていた…、追島さんは、ススだらけの顔から、不思議そうに目玉をギョロギョロと動かしていたが…

「ごめんなさいって…なっ、何でお前が謝るんだ…」

ぶっきらぼうに呟いた…、お慶さんは泣きながら

「私…、私、何も知らずに、あなたの事を恨んだりして…、あなたの本当の苦しみも知らずに…ユキを連れて出て行ってしまって…それに、あなたにひどい事ばかり…ごめんなさい…ごめんなさい…」

何度も何度も謝り続けた…、追島さんはそんなお慶さんをポカンと口を開けたまま、じっと見つめていた…

 

「何をボケッっと突っ立っとるんや…追島!…お慶ちゃんが泣いて謝っとるんないか、何ぞ優しい返事を返したらんかい、このアホたれ…」

追島さんの様子を見かねたのか、肩口を押さえながら西条さんが声をかけた…、追島さんは一瞬ギョッと目を見開くと

「さっ、西条!…おっ、お前…」

まじまじと西条さんの顔を見ていた…西条さんはフッと照れくさそうに笑うと、ユキちゃんの前にそっとしゃがみこみ…

「ユキちゃん…良かったのう、これでパパとママと、また一緒に暮らせるのう…」

「えっ!?…」

ユキちゃんは西条さんの言葉に

「パパとママと、また一緒に?…また一緒になれるの?…」

目をキラキラと輝かせた…

「さっ、西条、お前、急に現れて、なっ、何を言い出すんだコラ!!」

追島さんは慌てて、西条さんを見た後、ハッと驚きの顔を浮かべて横を向いた、

その視線の先には、追島さんのすす汚れた腕に手をまわし、すがる様なまなざしで、じっと見つめているお慶さんの姿があったのだった…

追島さんは真っ黒いススだらけの顔を赤くそめながら、恥ずかしそうに目玉を再びギョロギョロ動かしていた…

  

そんな追島さんとお慶さんの様子をじっと見ていためぐみちゃんは、

「良かった…これで、追島さんとお慶さん、それにユキちゃんも、また一緒に暮らせるんだね……ねっ!…」

そう言いながら、あたりをキョロキョロと見回した…

「あれ?…吉宗君?…吉宗君?…」

めぐみちゃんは、慌てて追島さんに声をかけた

「あの追島さん…吉宗くんは?…」

「えっ?」

「よっ、吉宗君です…」

「吉宗?…」

追島さんはキョトンとした顔で、めぐみちゃんを見た…

 

「えっ?…、追島さん、一緒に出てきたんじゃ…」

めぐみちゃんの言葉に、周りの人だかりは再びざわつきはじめた…

 

お慶さんも、慌てて追島さんを見ると

「あなた、吉宗君に…中で会わなかったの?…」

「吉宗って、何言ってるんだ?…どうしてあいつと中で会うんだ?…」

追島さんの様子に、めぐみちゃんの顔色がだんだん青ざめて言った…

「そ、それじゃ…吉宗君は…吉宗君は…」

慌てて、炎の立ち上る保育園に目を移した、

「吉宗君は、吉宗君は…まだ…中に……」

 

「おい、どういうことだ?…どうして吉宗がこの中に!?…」 

「ユッ、ユキを助けに行くって、いきなり飛び込んで…」

「何ーー!?…あのバカ、何を考えてやがるんだー!!」

追島さんが慌てている様子に、めぐみちゃんは、ガクッと崩れるようにその場にひざを落とした…

「吉宗くんが…吉宗くんが………いやだ…いやだーー!」

 

「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

燃え上がる炎で赤くそまった夜空に、めぐみちゃんの悲痛の叫びが響き続けた…

続き
第99話 吉宗君はたいした男 へ

イラストカットは近日アップします^^

Megulank_2
青いボタンのどれか一つと下の恐いおじさん達のイラストをポチしてねlovely
にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ にほんブログ村 小説ブログ コメディー小説へにほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
Banar←これも押してくれるとうれしいのらーcrying

good↑侠客☆吉宗くんの他、楽しい
ブログがいっぱい紹介されているサイトです

 

|

« 第97話 追島と吉宗君なら、きっと… | トップページ | 第99話 吉宗くんはたいした男… »

第一章 侠客鬼瓦興業」カテゴリの記事

コメント

ユキちゃん助かって良かった~note
追島さんお慶さんも仲直りできて良かった~note

って、またまたこんなところで終わるのかsign01
吉宗~~~shock

投稿: けんさぁ | 2009年10月26日 (月) 11時55分

けんさぁさん
相変わらず意地の悪い作者ですよーんsmile
吉宗くん無事出てこれるか、それとも…shock
次回いよいよ最大クライマックスですよー^^

話は変わって京都菊花賞マー君が出走しましたが、レース序盤からジョッキーと大喧嘩してました…coldsweats01
それでも最後はどんじりから強い連中をごぼう抜きで9着、負けはしましたが、末恐ろしい子ですcoldsweats01

投稿: 光一郎 | 2009年10月26日 (月) 18時29分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/166831/46509323

この記事へのトラックバック一覧です: 第98話 めぐみちゃんの悲しい叫び  :

« 第97話 追島と吉宗君なら、きっと… | トップページ | 第99話 吉宗くんはたいした男… »