第一章 侠客鬼瓦興業

2009年11月18日 (水)

第100話 素敵な恋 

西条さんとの死闘、それに火事場の大騒動、まるで嵐のような、あの一日から一週間がたった…

テキヤの仕事にも少しなれてきた僕は、毎日の日課である事務所の掃除をすませ、与太郎こと親父さんの愛犬ヨーゼフと共に多摩川のほとりを歩いていた…そんな僕のもとに

「吉宗くーん!待ってーー!」

制服姿のめぐみちゃんが、僕を追って笑顔で走って来た

Yssimune1001  

「あれ?めぐみちゃん…どうして?…学校は?…」

「今日は三時間目からだから、まだ時間があるんだ…それより吉宗君、頭…大丈夫?」

「えっ!ああ…、ほら、すっかりたんこぶも無くなったでしょ…」

「本当だ…、良かったー」

「ははは、こう見えても、けっこう石頭だからね…」

僕は額をぺしぺしと叩きながら、火事の夜の事を思い出していた…

 

 

保育園から無事救出された僕は、小さな病院のベッドの上で目をさました…

「…、あっ、あれ?ここは?…」

キョロキョロとあたりを見渡しながら、手に伝わってくる暖かい温もりに気がついた、

「あっ、めぐみちゃん!」

そこには僕の手を、両手でそっと握りながら、ベット脇の椅子で眠っている彼女の姿があったのだった…

「やっぱり、かっ、かわいいな~…」

僕はめぐみちゃんの寝顔をじーっと見つめて、鼻の下をでれーっと伸ばしていた…そんな僕の気配に気づいたのか、

「…うーん…」

彼女は小さな声をあげながら、ふっと目をさました…

 

「あっ!…気がついたのね、吉宗君!」

「あっ、うん…、あの…いったいここは?…」

「病院よ、吉宗君頭を強く打って気絶しちゃってたから…」

「頭を!?…あっ、痛たたた…」

僕はめぐみちゃんの言葉で、頭に大きなたんこぶが出来ている事に気がつき、ふっと火事場に飛び込んだ時の事を思い出した…

「たしか、あの時…、勢いよく建物に飛び込んで…、あっ!…そういえば何かにつまづいて、目の前に大きな白い柱が見えて…、あれ?ダメだ、そこから先が思い出せない…」

「うふふ…」

めぐみちゃんは嬉しそうに微笑むと

「柱に思いっきり頭をぶつけて、そのまま気絶しちゃったんだよ、吉宗君…」

「柱で気絶?…」

「そう、それで燃えている建物の中に入ることが出来なかったの、お陰でこうして無事に助かったんだよ…」

握った僕の手をそっと持ち上げ、やさしくその頬に近づけた…

 

「建物に入れなかった?…」

「うん、入り口で眠っていたの…」

「眠って…、えっ、あっ!それじゃ、ユキちゃんは!…」

「ユキちゃんだったら大丈夫よ、追島さんが無事に助け出したから…」

「追島さんが?…」

「うん、すすまみれの真っ黒い顔で、ユキちゃんと園長先生を火事の中から連れ出してくれたのよ…」

「そっ、そうか…良かった~」

僕は、ほっとため息をついた…

と、その時だった…

「良かったじゃないでしょ、みんなどれだけ心配したと思ってるの!」

お慶さんが怒った顔で、病室へ入ってきた…

「あっ、お慶さん!…」

「あっじゃねえだろ…、まったく無茶なことしやがって…このバカが…」

見るとお慶さんの後ろには、小さなユキちゃんを抱いた追島さんの姿があった…

「追島さん!?…あっ!…」

僕は、追島さん家族がそろって立っている姿に、思わず目を輝かせた…

Yssimune1002  

「あって…なんだお前、急に嬉しそうに…」

「だって、追島さんとお慶さん、それにユキちゃんも一緒に…」

追島さんは僕の言葉に、照れくさそうに天井に目を向けた…お慶さんはそんな追島さんの腕にそっと手をかけると

「吉宗君のおかげで、この人に許してもらえたのよ、私…」

「えっ、それじゃ!」

「また、よりを戻すことになったの…、ね、あなた…」

ニッコリ笑いながら、追島さんの太い腕に顔をすり寄せた

「おっ、おい、バカ…人前でそんな事…」

「いいじゃない…、私は素直に嬉しいんだから、」

「でっ、でも、バカ…」

追島さんはまるで本物のゴリラのように真っ赤な顔で固まっていた…

 

「良かった…本当に良かった…」

気がつくと僕は、ポロポロと涙を流しながら微笑んでいた…、追島さんはそんな僕に近づくと

「まったく、後先も考えないで無謀なことしやがって…」

「すっ、すいません…」

「すいませんじゃねえ、めぐみちゃんが、どれだけ心配したと思ってるんだ…」

「えっ!」

追島さんの言葉に、そっと隣のめぐみちゃんを見た、そこには潤んだ瞳で僕を見ている彼女の姿があった…

「ご、ごめんね、めぐみちゃん…」

「ううん…」

めぐみちゃんは、静かに首を振りながら、涙をぬぐっていた…

「ごめん…本当にごめん…」

しゅんとした顔でうなだれている僕の肩を、追島さんはポンとたたくと

「解ったら、これからは、無茶なことすんじゃねーぞ、吉宗…」

「あっ、はい、すっ、すいません…」

 

「ふふふ、無茶なことって、偉そうに言えないんじゃない…あなただって…」

「あっ?何でだ…」

「建物の中に先に飛び込んだのは、あなたでしょ…」

お慶さんの言葉に追島さんは

「たしかに、そうだけどよ…」

「ふふ、でも、そのおかげで、ユキも園長先生も助かったんだよね…」

「おう、その通りだろうが…」

頭を掻きながら照れくさそうに笑っていた…そしてその追島さんの腕の中には幸せそうに二人の様子を見つめているユキちゃんの姿があった…  

(良かった…本当に良かった…)

僕は幸せそうな追島さん家族を見ていて、うれしくてたまらず、ただ、ニコニコと微笑んでいたのだった…

 

「何や!…目覚ましたんか…吉宗…」

追島さん家族の後ろから、西条さんがぬっと顔を出した、追島さんは振り返ると

「何でえ、もう一人のバカが姿を見せやがって…寝てなくていいのか?竜一…」

「ふん、こないな傷、どうって事ないわい、ほんまやったら小便かけるだけで十分や…」

西条さんは肩から腕にかけて、がちがちに包帯で覆われていた

「西条さん、そっ、その包帯は?…」

「吉宗君…」

隣にいためぐみちゃんが、そっと僕の腕を引いた… 

「西条さん、肩に大怪我をしながら、追島さんや吉宗君を助けるために頑張ってくれたのよ…」

「肩に大怪我!?」

「アホ、大怪我やない、小便傷やって言うとるやろが…」

 

「ちょっと!西条さん!あなたまた病室を抜け出して…何を考えているんですか!」

西条さんの後ろから恰幅のいい看護婦さんが姿を現した…

「なっ、何や…、またあんたかいな…」

「あんたじゃないでしょう、あなた出血多量でもう少しで死に掛けていたのよ…、病室で安静にしていなければダメだって、先生も言っていたでしょう…」

「何いうとるんや、姉ちゃん、自分の体は自分が一番しっとるや…その証拠に見てみい、こうしてピンピンと…」

西条さんは大声で笑っていたが、突然ふっと白目を向くと、恰幅のいい看護婦さんの大きな胸に向かって倒れてしまった…   

「まー、やだ、この人ったら、また貧血で気を失ってるわ…、だから言わんこっちゃない!…」

恰幅のいい看護婦さんは、あきれ顔で笑うと、西条さんをひょいっと抱き上げ、そのまま部屋から出て行ってしまった… 

「す、すごい…まるで女番の追島さんみたいな看護婦さんだ…」

「女番の俺!…バカ野郎…」

僕の言葉に、お慶さんもめぐみちゃんも、嬉しそうに笑っていた…

 

 

 

「吉宗くん…ねえ、吉宗くんってば…」

「えっ!?」

「さっきから何を笑ってるの?…」

「ああ、病院で見た追島さんみたいな看護婦さんの事を思い出しちゃって…」

多摩川の川辺を歩きながら、僕はめぐみちゃんに微笑んだ

「ああ、あの看護婦さんね…ふふふ、すごい力持ちだったよね、あの人…」

「うん…」

「あっ、そうだ吉宗くん、昨夜、栄ちゃんからメールが届いたんだ…」

「栄二さんから?」

「うん、今、北海道にいるんだって…」

めぐみちゃんは嬉しそうに鞄から携帯を取り出すと、一枚の写真を僕に見せてくれた…

「ほら、見て、ここ、栄ちゃんと一緒に西条さんも写ってるでしょ…」

「あっ、本当だ…、すごい元気そうだ…あれ?…」

僕は西条さんの隣で微笑んでいる、綺麗な女性に気がついた…

「この人はいったい?…」

「ふふふ、西条さんの奥さん、君枝さんだって…」

「西条さんの?…」

「うん…、西条さん、奥さんの事、一人で迎えに行くのは嫌だって、栄ちゃんに駄々をこねたんだって、それで栄ちゃんたちもしかたなく、海の幸をご馳走してもらう約束で、一緒に、札幌ツアーに出かけたって……」

「へえ…、そんなことが…」

「うん、西条さん幸せそうでしょ…」

「うん、西条さんも奥さんも、みんな、すごく嬉しそうに笑ってる…」

「そうだね、本当に嬉しそうだね…」

僕とめぐみちゃんは、北の大地で幸せそうに微笑むみんなの写真に、思わず目を潤ませていた…

 

「そうだ、吉宗くん…栄ちゃんから実はもう一枚写真が送られてきたんだ、ほら見て…」

「えっ?…」

めぐみちゃんの携帯を再び覗くと、そこには女衒の栄二さんと同じような、ど派手なブラウスに白いパンタロン、そして奇妙な紫の角刈り姿の若い男が写っていた…

「ねえ、これ、誰だと思う?…」

「あれ?スタイルは栄二さんそっくりだけど…」

僕は首をかしげながら、その写真を見ていたが、やがて

「うわーーーー、こっ、こいつは!?」

思わず顔を引きつらせた…

「めぐみちゃん、この男!?」

「そう、三波先生…」

「いっ、イケメン三波!…なんで、まるで女衒の栄二さんそっくりだ…」

「実はね、三波先生、栄ちゃんの弟子にされちゃったんだって…」

「栄二さんの弟子!?」

「うん」

「へえ、それで栄二さんと同じかっこにさせられちゃったんだ…ははは…」

僕は変わり果てた三波の姿に、思わずケラケラ笑っていた…

Yssimune1003_2  

「三波先生、一人前の女衒になるまで、栄二さんと一緒に暮らすそうよ…女性と付き合うことも禁止だって…」

「へえ、それじゃ三波の奴も、当分悪さは出来ないね…」

「うん…」

めぐみちゃんは静かにうなずくと、いつの間にか真剣な顔で僕を見つめていた…

 

「吉宗くん…」

「えっ?」

「実は三波先生、栄二さんと約束をしたことがあるんだって…」

「約束?…」

「うん、真理絵さんに作らせた、借金を返すって約束…」 

「まりえさん?…」 

「そう…吉宗くんも、知ってる人よ…」

「えっ、僕が知ってる人?…」

「そう、よーく知ってる人…」

めぐみちゃんは、いたずらな笑顔で僕を見た

 

「よく知ってるって…???」

  

「吉宗君が廊下で豪快に滑った人よ…」

 

「うげっーー!?」

 

僕は思わず青ざめてしまった…そして、恐る恐るめぐみちゃんを見ると 

「あっ、あの…めっ、めぐみちゃん…まっ、まさか、まりえさんって、マッ、マッ、マッ…マライアさんのことでは…?」

「ピンポン、正解!!」

めぐみちゃんはニンマリと笑いながら、指を立てた…

 

「そ、そうか…はは…ははは…、三波はマライアさんの借金を返すと事に…、ハハハ…そうか、そうなったか…」

「良かったでしょ、吉宗くん…真理絵さんもきっと喜ぶよ…ねっ、ねっ…」

「あっ、うん…そうだね…、きっと喜ぶね…ハハ…ハハハハ…」

僕はそれからしばらく、まるでロボットのようにぎくしゃくとしながら、川辺を歩き続けていた…そんな僕のことを、めぐみちゃんは再び悪戯な顔で見ると…

「真理絵さんって美人でグラマーで、素敵な人だったね…」

「えっ、あっ…、そうだね…はは、はははは…」

「どうしたの?そんなに緊張しまくっちゃって…」

「いや、あの…僕…あの…」

「………」

「ご、ごめん…僕、めぐみちゃんとの約束を破ってしまって…あのお風呂屋さんに…」

「………」

めぐみちゃんはしばらく無言で僕を見つめていたが、ふっとやさしく微笑むと

「吉宗君は約束を破ったりしてないよ…」

そう言いながら、そっと僕の腕に手をまわしてくれた…

 

「えっ!、だって、僕…、約束を破ってソープランドに…」

「それはスケート場だと思ったんでしょ?…」

「あ、うん…えっ?…なんでそのこと?…」

「実はね、真理絵さんから全部聞かせてもらったの…」

「マッ、マライアさんから?…」

「うん、お風呂屋さんの中で、吉宗君と真理絵さんに何があったか、ぜーんぶ……、あの夜、真理絵さん、わざわざ私を探し出してくれて、教えてくれたの…」

「ええ…そうだったの…」

「うん…吉宗君、私のために、我慢してくれたんだよね…」

めぐみちゃんは、頬を染めながら僕を見つめた…

 

「我慢って…あの…」

「だって、吉宗君くらいの子だったら、みんなそういうのに興味一杯でしょ、なのに私のために我慢してくれて、それに相手は、あんなに美人で素敵な人なのに……」

「えっ、あっ……」

「嬉しかった…、私、そのことを真理絵さんから聞いて、すごーく嬉しかったんだ…やっぱり吉宗君は、私が思ったとおりだったって…初めて出合った時、感じた風は本物だったって…」

「めっ、めぐみちゃん…」

僕は彼女の言葉に、思わず目を潤ませていた…

めぐみちゃんはそんな僕を、頬をそめながら真剣に見つめると

「いいよ…私、吉宗くんだったら…」

「えっ!?」

「だって、私のために我慢してくれたんでしょ…、吉宗君…だから、いいよ私…」

「いいって、あの、めぐみちゃん…」

めぐみちゃんの積極的な言葉に、僕は顔を真っ赤にしながら、ガチガチに硬直していた、そしてふっとあたりを見渡すと、僕達は人気の無い多摩川の、生い茂った草むらの影にいることに気がついた…

 

「いいよ…吉宗君…」

めぐみちゃんは、再びそう言うと、頬をピンクに染めながら、僕の前でそっと目を閉じた…

 

(うおーーーー、この展開は…つっ、ついに…)

僕はドキドキしながら、しばらく彼女の顔を見つめていたが、やがて心の中で、ヨシッと叫んだ…

(ぼっ、僕も男だ…、ここはかっこよく、決めなくては…)

心臓の鼓動がバックン、バックン、耳に響いていた、僕は勇気をふりしぼって、彼女の肩にそっと手をかけた…

「めぐみちゃん…いっ、いくよ…」

「うん…」

彼女はそっとうなずいた…

僕はぐっと目を閉じると、ニューッと唇をとがらせ、彼女の唇に向かって顔を近づけていった…

(ついに、めぐみちゃんとキッスの時が…そして…結ばれる時がきたんだ…)

僕の頭に、彼女と出会ってから起こった、数々の出来事が走馬灯のように浮かんできた…知り合ってからは短いけれど、でも僕と彼女の間に起こったことを振り返ると、そんな時間などまったく関係ない…まるで何十年も共に過ごしてきた…そんな募る思いに感動しながら、僕は彼女の唇めがけて、そのとがった口を近づけていった…

そしてあと数ミリで彼女のピンクの唇へ到達できる、と、その瞬間だった 

「ウー、ワン!!」

突然僕の隣から、どすのきいた犬の鳴き声が聞こえてきた…それと同時に僕の体はまるでブラックホールに吸い込まれるように、めぐみちゃんの前から引き離されてしまったのだった…

 

「うわっ!?何だーーー!」

慌てて目を見開くと、そこには巨大なセントバーナードの姿が…

「ぐおあーーー、ヨッ、ヨーゼフ!?」

僕は大切なことを忘れていたのだ…それは、今、与太郎ヨーゼフの散歩中だったという事、そして僕の左手には、ヨーゼフをつないだリードが、がっちり巻きつけられていたことだった…

僕とめぐみちゃんの愛の姿を、恋敵のヨーゼフが面白いはずは無かった、嫉妬した与太郎ヨーゼフは、僕を引きずったまま、全力で走り出し、そのまま僕は西部劇のように引き回され、めぐみちゃんの下から引き離されてしまったのだった…

 

「うわーーーー、やっ、やめれーーーヨーゼフーーーーー!!」

「ワン、ワワン…ワンワン…」

ヨーゼフは嫉妬に目を血走らせながら、僕を引きずり走り続けた…

「ヨーゼフ、やめなさい、ヨーゼフ!!」

めぐみちゃんも必死に僕達を追いかけてた…しかし与太郎ヨーゼフは一向に止まろうとはせず、僕を引きずったまま遥かかなたへと走りさってしまったのだった…

 

「ハア、ハア…もう、ヨーゼフったら…」

めぐみちゃんは息を切らせながら立ち止まると、あきれた顔で遠くを見ていた…

 

「あらら、今の、鬼瓦興業の吉宗くんかね?…またヨーゼフちゃんと楽しそうに遊んでるだがね、はははは…」

以前会った町内会のお楽さんが、嬉しそうにめぐみちゃんの下へ近づいて来た…

「あっ、お楽さん、おはようございます…」

「あらら、神咲さんの所のめぐみちゃんじゃない、まあ、相変わらず美人さんだがね…」

「いやだ、お楽さんったら…」

「いやいや、ほんとだよー、前にもまして、すっごく綺麗になったよー、何かいいことでもあったのかい?…」

「えっ!…いいこと?…」

めぐみちゃんは、お楽さんの言葉に、目をキラキラ輝かせると、僕が消えさった方角を見た…そして一言

「今…すっごく素敵な、恋をしてるから…heart04

幸せ一杯に、微笑んだのだった・・・

Yssimune1004

侠客吉宗くん第一章おしまいhappy01

続き 第二章 101話 新たなる波乱の幕開けへ

Megulank_2
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2009年11月 5日 (木)

第99話 吉宗くんはたいした男…

「おっ、おい、どうしてだ…なんで吉宗のやつが…」

追島さんはススだらけの顔で、お慶さんに尋ねていた、

「ユキのことを助けようと…夢中で中へ…」

「ユキを助けるって…、ユッ、ユキはもうここにいるだろうが…」

お慶さんは小さくうなずくと、青ざめた顔で燃え上がる建物に目を向けた

「あの子、まだ、何も知らずに、中でユキのことを探してるんじゃ…」

「あっ、あの煙の中でか?…」

「そうよ、きっと必死にユキのことを…」

「だっ…、だとしたら、途中であきらめて、引き返してくれてればいいんだが…」

追島さんの言葉に、めぐみちゃんが小さく首を横に振った…

「吉宗君は…引きかえす人じゃないです…」

「えっ?…」

「吉宗君は…、吉宗君は、ユキちゃんを助けるまでは、絶対にあきらめたりしない…そういう人です…」

そう言いながら立ち上がると、

「知らせなきゃ…吉宗君にユキちゃんの事を知らせてあげなきゃ…」

ふらふらとした足取りで、建物の入り口付近に向かって歩き始めていた…

「め、めぐみちゃん?…」

「知らせるんです!!吉宗君に知らせるんです!!」

「知らせるって、中はすでに火の海なんだぞ!…」

「それでも、知らせるんです!!」

めぐみちゃんは追島さんの制止を振りはらうと、夢中で燃え上がる建物の入り口に向かって走っていった…

 

「吉宗君!!…吉宗くーん!!」

「なっ、何!?」

叫びながら近づいてくるめぐみちゃんを、あわてて消防隊員たちがとり押さえた…、

「コラ、君…何を考えてるんだ…危険だから下がりなさい!!」

「知らせるんです!中にいる吉宗君にユキちゃんが無事だって知らせて、戻って来てもらうんです!!」

「なっ、何を無茶なことを…こんな中に飛び込んだりしたら、君の命まで!…」

「でも、このままじゃ吉宗君が…吉宗君が…」

「しっ、しかし…もう火は玄関の近くまで来てるんだぞ…」

「それでも、知らせるんです!吉宗君に知らせるんです…だから、放してください!」

「ダメだ!、あのような危険な場所に君のような女性では無理だ!…」

と、その時だった、

  

「せやったら、ワイがいっちゃる…」

 

「えっ!?」 

聞き覚えのある声に振り返ると、そこには、いつの間に手に入れたのか消防隊のヘルメットをかぶった西条さんの姿があった…

「ええか、吉宗は死なせたらあかん男や…、ワイの命にかえても、吉宗は助け出しちゃる…」

西条さんはそう叫ぶと同時に、めぐみちゃんと消防隊員の横をすり抜け、そのまま燃え上がる保育園の中へ飛び込んでいってしまったのだった…

 

「なっ、何だ!?…だっ、誰だ今の隊員は?…」

消防隊員たちは慌てて顔を見合わせたが、スーツに消防ヘルメットという西条さんの奇妙ないでたちに気がつくと

「何だあの男はー、おいコラ!ちょっと待ちなさーーい!!」

口々に叫びながら、西条さんの後を追いかけ建物の中へ突入していってた…

と、その直後だった…ガシャガシャガシャーーーン!

大きな音と共に、西条さん達が飛び込んだ入り口付近を残し、保育園の建物の大半が崩れ落ちてしまったのだ…

「キャーーーーー!!」

あたりいっせいに、悲鳴のような叫び声が響きわたった…

 

少しして、西条さんが呆然とした顔で、崩れ残った保育園の入り口から飛び出してきた…

「さっ、西条さん…」

めぐみちゃんは西条さんの青ざめた様子に、唇をわなわなと震わせると

「よっ、吉宗くーーん!!」

大声で崩れ落ちた建物に向かって叫んでいた…

「あなた、吉宗君が、吉宗君が…」

お慶さんも泣きながら追島さんの胸に顔をうずめた、そしてその追島さんも

「あっ、あのバカが…無駄死にしやがって…ぐおっ…ぐおーーー」

すさまじい形相で泣き崩れていた…

「よっ、吉宗ーー!!」

「吉宗の兄貴ーーーー!!」

「ぐおーーー、吉宗ーーー!」

銀二さんも、鉄も、熊井さんも…みんなが悲しみに泣きくずれていた…

  

「吉宗君…吉宗君の…バカ…バカ…みんなを残して死んじゃうなんて…バカ…」

めぐみちゃんはその場にしゃがみこむと、ぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくっていた…

 

そんなめぐみちゃんの元へ、間一髪、建物の下敷きにならずに助かった西条さんが、呆然とした顔で近づいてくると、

「なっ、何て野郎や…あの一条吉宗って男は…」

そう言いながら肩口を押さえて、その場に崩れ落ちた…

「さっ、西条さん!!」

めぐみちゃんは慌てて西条さんの元へ近づいた…

「わっ、わいやったら大丈夫や、大丈夫や…」

西条さんは肩の傷を押さえながら、うつろな目でめぐみちゃんを見ると、

「めぐみちゃん…あんたの彼氏やが…」

「あっ、はい…」

「たっ、たいした男や…」

「はいっ…、はいっ…」

「ホンマにたいした男や…」

西条さんの言葉にめぐみちゃんは泣きながら唇をゆがめると

「でも…、でも…、たとえ、たいした男でも、死んじゃったら何にもならないじゃないですか…、たくさんの人に悲しみを残して、死んじゃったら、何もならないじゃないですか……うっうううぇうぇ…」

めぐみちゃんの言葉に西条さんは、一瞬パチパチとまばたきをすると

「死ぬ?…」

不思議そうな顔を向けた…

 

「めぐみちゃん…死ぬってあんた、何を言うとるんや?…」 

「えっ!?…」

「ワイが言いたいのは、あの吉宗いう男は、ホンマに運の強いたいした男や、そういう意味でのたいした男やで…」

「運の強い?…」

めぐみちゃんはきょとんとした顔で西条さんを見た後、あわてて保育園の入り口に目を移した…そして

「あーーーー!?」

大きな声を上げながら、目をキラキラと輝かせた…

めぐみちゃんの目線の先には、消防隊員のタンカの上に、大口をおっぴろげたバカづらで、仰向けに倒れながら救出されている、僕の姿があったのだった…

Kyuusyutu99_2   

「よっ、吉宗君!!」

めぐみちゃんは涙をいっぱいにためながら、僕のもとへ走りよっていった…

 

「あっ!、君はたしか、さっきの!?…」

消防隊員の一人がめぐみちゃんに気がつくと、顔のススをぬぐいながら微笑んだ…

「あの、吉宗君は、吉宗君は!?…」

「ああ、彼だったら大丈夫、軽い脳振とうを起こして寝ているだけです…」

「脳振とう?…」

めぐみちゃんは目をパチパチしながら腰をおろすと、僕の頭に出来た巨大なたんこぶを見て思わず目を丸くした…

「なっ、何?…この大きなたんこぶ!?」

「ああ、これね、玄関を入ってすぐの所に大きな柱がありましてね、そこへおもいっきり頭をぶつけたようですね、君の彼氏は…」

「玄関の柱に?…」

めぐみちゃんはポカンと口を開け、消防隊員のことを見た

「どうやら、彼、火事場に飛び込んだのはいいものの、勢いあまって玄関入り口の段差につまずき、目の前の柱に頭をぶつけて、そのままそこで気絶してしまったようです…、お陰で燃え上がる建物の中には入れなかったようで……」

消防隊員はそう話しながら、バカづらで気絶している僕を見て、必死に笑いをこらえていた…

「それじゃ、吉宗君は、玄関でつまづいたおかげで無事に?…」

「はい、もしも、あそこで転んで頭をぶつけていなかったら、きっと今頃は…」

消防隊員はそういいながら、無残に崩れ落ちてしまった保育園の建物に目をやった…

「西条さんが言っていた、運が良いって、そういうことだったの…」

めぐみちゃんは建物を見ながら、そっと目をとじると、はぁ~っと小さなため息を一つついた…、そして再び視線を僕に向けると  

「吉宗くん!…」

うれしそうに微笑みながら、そっと僕の手をにぎりしめた…

 

「よかった…本当によかった…」

めぐみちゃんはポロポロと涙をこぼしながら、それからずっと僕のそばに寄り添っていた…

そして僕は、そんな彼女の暖かい手のぬくもりを感じながら、大口を開けたバカ面で、いつまでも幸せそうに、眠り続けていたのだったのだった…

Yssimune99nemuri

続き
第100話 素敵な恋…へ

イラストカットは近日アップします^^

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2009年10月24日 (土)

第98話 めぐみちゃんの悲しい叫び  

燃え上がる建物の周りでは、いつしか消防隊員による消化活動の準備が始まっていた…そんな中、西条さんは…

「えーい、放せコラ!!ワイも助けに行くんやー!!」

大声で怒鳴りながら中へ飛び込もうとしていたが、数名の消防隊員に押さえられ必死にもがいていた…

「危険ですから離れて…」

「放せコラー、放さんかーい!!」

「救出作業は私達にまかせて、とにかくこれ以上近づかないで!!」

「えーい、せやったら、早う助けださんかい!!」

西条さんはイライラしながら、その場から離れると、何を思ったか、一人建物の入り口近くへ向かって

「追島ーーーー!!吉宗ーーーーーーー!!」

必死に大声で叫びはじめた…

 

「西条さん!!」

「西条ー、聞いたぞ、中に追島たちがいるって…」

「銀二…それに熊ー!!」

西条さんは熊井さんたちを見ると

「大声や!…とにかくみんなで大声や、追島たちを呼ぶんや!!」

「大声で?西条どうして…」

「どうしても、こうしても…大声で呼ぶんや!!…えーから早うせい…」

必死に訴えると、険しい顔で肩口を押さえながら、その場にガクッと片ひざをついた… 

「西条さん、そんな傷をおった体で!…」

銀二さんが慌てて近づくと、西条さんはぐっと唇をかみしめ

「だっ、大丈夫や…こんな小便傷…うぐおおおおおおおーー!!」

うなり声を上げながら、立ち上がり建物の入り口へ向かって再び大声をはり上げた…

「うおおおおーーー、追島ーーーー!!吉宗ーーーー!!」

熊井さんはそんな西条さんの事を、しばらくじっと見ていたが、やがて眉間にしわを寄せると…

「よしっ!!……」

気合と共に胸に一杯の空気を吸い込み

「うおおお追島ーーーーーーーーーー!!」

建物の入り口めがけて、まるで恐竜のような雄たけびを上げた… 

「追島ーーーーーーー!吉宗ーーーーーーーー!!」

「追島さーーーーん!!」

「吉宗ーーーーーーーー!!」

いつしか燃え上がる建物の周りでは、追島さんと僕を呼ぶ沢山の声が響き渡っていたのだった…

 

 

その頃、追島さんは…

煙の立ち込める中、保育園の廊下を奥へ向かって突き進んでいた…

「ユキーーー!ユキーーーーーー!!」

記憶を頼りに、ユキちゃんがいた部屋を見つけると、

「ここだ!…確かこの扉の奥の部屋にユキがいたはず…」

そう言って扉を開いた、と、その瞬間だった…ブワーーー!!扉の中から巨大な炎が追島さんめがけて襲いかかってきた…

「うおーーーーっ!!」

追島さんは炎の勢いに吹き飛ばされ、廊下の壁に打ち付けられてしまった…

 

「ぐおっ…なっ、何てことだ…ひっ、火元はここだったのか……」

追島さんはしばらく呆然と、燃え上がるユキちゃんがいた部屋の入り口を見ていたが、突然鬼のような顔で立ち上がると…

「ユキ…ユキーーー!!」

炎の中へ飛び込もうと試みた…しかし、その勢いはすさまじく、追島さんは前に進む事が出来ず、その場に崩れ落ちるようにひざまづくと

「うおおおお!ユキーーーー!ユキーーーーー!!」

大声で泣き叫んだ…

 

と、その時だった…

  

「パパ…パパ……」

追島さんの耳に、どこかから、小さな声が聞こえてきた…

「はっ!?…」

追島さんは慌ててあたりを見渡した…、すると廊下の隅に詰まれたおもちゃ箱の陰に、震えながら、必死に毛布をかぶってうずくまっている、ユキちゃんの姿が…

「ユキー!!」

追島さんは顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶと、毛布の中で震えているユキちゃんを抱き起こした…

「パッ、パパ?…本当にパパなの…」

「ああ、パパだ…パパが助けに来たから…もう、大丈夫だ…大丈夫だ……」

「ユキ、怖かったよ…とっても、とっても怖かったんだよ…」

「うん、うん…よく頑張った、頑張ったなユキ…」

追島さんは毛布ごとユキちゃんを抱きかかえると、急ぎ煙の立ち込める廊下を、もと来た方へ走っていった…

  

「園長…園長…ユキは大丈夫だ…」

煙の立ち込める中、園長はうっすらと目を開けると、

「ユキちゃん…本当にユキちゃん!?…良かった…無事で…良かった…」

ポロポロと涙を流しながら、毛布の中でじっとしているユキちゃんを見た…やがて園長は追島さんをそっと見上げると…

「追島さん…申し訳ありません…本当に申し訳ありませんでした…」

泣きながら、謝り続けていた…

「あんたが謝ることじゃない…これは事故なんだから…」

園長は追島さん言葉に首を振ると…

「事故ではありません…これは…これは…」

よほど恐ろしい事があったのか、青ざめた顔で涙を流し続けていた…

「園長、その頭の傷といい…何か深いわけがあるんだな…」

園長は静かにうなずいた…

 

「とにかく、何があったか…話は後だ…、もうじきここも火の海だぞ、さあ、俺の背中に乗りなよ…」

追島さんは大きな背中を園長に向けた…しかし園長は、静かに首を横にふると 

「私はいいですから……追島さん…ユキちゃんを連れて早く逃げてください…」

優しい目で微笑んだ 

「何を言ってるんだ園長……」

「いえ、こんな状態の私がいては、迷惑が…、私のことは良いですから…早くユキちゃんを連れて行ってください…」

園長はそう言いながら、何かを思い出したようにポロポロと涙をこぼした… 

「馬鹿な事を言うな、さあ、早く俺の背中に…」

追島さんはユキちゃんを抱きかかえたままかがみこむと、再び園長に背中を向けた…

「もう、いいんです…私はいいんです…、お願いです、このままここで死なせて下さい…」

「死なせてくれって、あんた?…」

「これは私にできる罪の償いなんです…」

「償い?」

「私が、私がいけなかったから…研二さんが…」

園長はそういいながら、血の出ている額を押さえた…、追島さんはそんな園長をじっと見ていたが、急にムッと怖い顔をすると

「何が償いだ…、ふざけんじゃねえぞ、このババア!!…」

「…えっ!?」

突然の悪態に、園長は目を見開いた…追島さんは更に険しい顔で 

「とんでもねえ事情があったのは解るがよ…でもよ、あんた、教育者だろ…」

「はっ?」

「あんた保育園の園長だろ、だったらチビどもの教育者だろ?…」

「!?」

「子供が見てるんだぞ…、教育者だったら、どんな事があろうと、前向いて生きてる所、子供に見せるんじゃねえのかよ…」

「前を向いて?…」

園長は、ハッと驚いた…そこには毛布の中から不安な瞳で自分を見ている、ユキちゃんの姿があった…

 

「園長先生…一緒に行こう…、パパだったら力持ちだから、全然大丈夫だから…」

「ユキちゃん…」

「さあ、園長…ユキの言うとおりだ、早く俺の背中にのって…」

「……」

「さあ、早く…急がねえと、もうじき火の海だって言ってるだろ!さあ…」

「あっ、はい…」

園長はうなずくと、必死に追島さんの背中にしがみついた…

 

「うっしゃーーー!」

追島さんは一つ気合を入れると、背中に園長を背負い、胸にユキちゃんを抱えて、廊下を走り始めた…、と、その時だった…バリバリ、バチーン!!炎の影響か、大きな音と共に、今まで点灯していた廊下の蛍光灯が一斉に破裂して、あたりは真っ暗闇となってしまった、

「ぐおー、もう少しだってのに…」

真っ暗な世界に加え、時と共に濃くなっていく煙によって、追島さんたちは完全に視界を失ってしまったのだ…

「ぐお、まったく前が見えなくなっちまった…」

追島さんはユキちゃんと園長を抱えたまましばらく煙の中をさまよい、やがて低くかがみ込むと…

「やべえ、まじで出口が…わからねえ…」

思わず唇をかみしめた…と、その時だった…

 

「追島ーーーーーーーーー!追島ーーーーーーーーーー!」

 

何処からともなく自分を呼ぶ声が響いてきたのだ…

「追島さーんーー、追島さーーーーん!!」

追島さんは真っ暗闇の中、声の方角に耳を傾けた… 

「だっ、誰かが俺を…」

 

「追島ーーー、出口はこっちだーーーーーー!!」

「追島さーーーーん!!」

 

「こっちか!!…」

追島さんは声の方角を確認すると、

「園長、ユキ…しばらく息を止めていろ…」

二人にそう告げ、もうもうと煙の立ち上る声の方角に向かって、走りだした…

 

 

「追島ーーーー!追島ーーーーーーー!!」

「追島さーん、吉宗ーーーーーー!」

保育園の外では、西条さんに銀二さん、それに川竜一家の人たちが必死に大声を張り上げていた…

そしてお慶さんも、

「あなたーーーー!あなたーーーーーー!!」

泣きながら、追島さんの事をそう呼び続けていた…そんな時、めぐみちゃんが保育園の裏口付近の煙の中に、ふっと現れた大きな黒い影に気がついた…

「あっ、あれっ!?」

「えっ!…」

「お慶さん…ほら、あそこに黒い人影が!!…」

「あっ!?」

お慶さんはハッと目を見開いた、同時に周りの人だかりが、いっせいにどよめきたった…、

「あっ、あれは……!」

黒い影は煙の中を、どんどん外へと向かってくると、やがて

「ぶはぁーーーーーーーー!!」

と、その口から、真っ黒い煙を吐き出しながら、これまた真っ黒いススまみれの形相で、建物の中から飛び出して来た…

「ぶはーー、ぶはーーーーー!」

男はまるで機関車のように、黒い煙を口から吐き出しながら肩で息をし続けていた、そして、男のすす汚れた腕には毛布に包まった小さな女の子、背中には初老の女性が…そう、それはまさしく火事場から命がけで二人を救い出した、追島さんだったのだった…

98oijimasan  

「ユキ!?…」

お慶さんは追島さんに抱かれているユキちゃんに気づくと

「ユキーーーーーッ!!」

叫びながら追島さん達の元へ走っていた…

「ぶはー、ぶはー…はっ!?」

追島さんはお慶さんが近づいてくるのに気がつくと、ユキちゃんと園長を降ろし、慌てて二人から数歩遠ざかった…

「ユキー、ユキーーー!!、本当にユキなのね…良かったー、本当に良かったー!!」

お慶さんは一心不乱に毛布で包まれたユキちゃんを抱きしめた…そんな親子の再会にいつしか周りの人たちは、感動の拍手を送っていた…

追島さんはそんなユキちゃんとお慶さんの様子を、真っ黒い顔でじっと見つめていたが、やがて寂しげに後ろを向くと、そっとその場から立ち去ろうとした…お慶さんはそんな追島さんに気がつくと

「まっ、待ってーーー!」

あわてて叫んだ…

「待って…あなた…お願い、待って下さい…」

お慶さんは、追島さんの元に近づくと、ポロポロと涙をこぼしながら…

「ごめんなさい…あなた…、ごめんなさい…ごめんなさい…」

謝り続けていた…、追島さんは、ススだらけの顔から、不思議そうに目玉をギョロギョロと動かしていたが…

「ごめんなさいって…なっ、何でお前が謝るんだ…」

ぶっきらぼうに呟いた…、お慶さんは泣きながら

「私…、私、何も知らずに、あなたの事を恨んだりして…、あなたの本当の苦しみも知らずに…ユキを連れて出て行ってしまって…それに、あなたにひどい事ばかり…ごめんなさい…ごめんなさい…」

何度も何度も謝り続けた…、追島さんはそんなお慶さんをポカンと口を開けたまま、じっと見つめていた…

 

「何をボケッっと突っ立っとるんや…追島!…お慶ちゃんが泣いて謝っとるんないか、何ぞ優しい返事を返したらんかい、このアホたれ…」

追島さんの様子を見かねたのか、肩口を押さえながら西条さんが声をかけた…、追島さんは一瞬ギョッと目を見開くと

「さっ、西条!…おっ、お前…」

まじまじと西条さんの顔を見ていた…西条さんはフッと照れくさそうに笑うと、ユキちゃんの前にそっとしゃがみこみ…

「ユキちゃん…良かったのう、これでパパとママと、また一緒に暮らせるのう…」

「えっ!?…」

ユキちゃんは西条さんの言葉に

「パパとママと、また一緒に?…また一緒になれるの?…」

目をキラキラと輝かせた…

「さっ、西条、お前、急に現れて、なっ、何を言い出すんだコラ!!」

追島さんは慌てて、西条さんを見た後、ハッと驚きの顔を浮かべて横を向いた、

その視線の先には、追島さんのすす汚れた腕に手をまわし、すがる様なまなざしで、じっと見つめているお慶さんの姿があったのだった…

追島さんは真っ黒いススだらけの顔を赤くそめながら、恥ずかしそうに目玉を再びギョロギョロ動かしていた…

  

そんな追島さんとお慶さんの様子をじっと見ていためぐみちゃんは、

「良かった…これで、追島さんとお慶さん、それにユキちゃんも、また一緒に暮らせるんだね……ねっ!…」

そう言いながら、あたりをキョロキョロと見回した…

「あれ?…吉宗君?…吉宗君?…」

めぐみちゃんは、慌てて追島さんに声をかけた

「あの追島さん…吉宗くんは?…」

「えっ?」

「よっ、吉宗君です…」

「吉宗?…」

追島さんはキョトンとした顔で、めぐみちゃんを見た…

 

「えっ?…、追島さん、一緒に出てきたんじゃ…」

めぐみちゃんの言葉に、周りの人だかりは再びざわつきはじめた…

 

お慶さんも、慌てて追島さんを見ると

「あなた、吉宗君に…中で会わなかったの?…」

「吉宗って、何言ってるんだ?…どうしてあいつと中で会うんだ?…」

追島さんの様子に、めぐみちゃんの顔色がだんだん青ざめて言った…

「そ、それじゃ…吉宗君は…吉宗君は…」

慌てて、炎の立ち上る保育園に目を移した、

「吉宗君は、吉宗君は…まだ…中に……」

 

「おい、どういうことだ?…どうして吉宗がこの中に!?…」 

「ユッ、ユキを助けに行くって、いきなり飛び込んで…」

「何ーー!?…あのバカ、何を考えてやがるんだー!!」

追島さんが慌てている様子に、めぐみちゃんは、ガクッと崩れるようにその場にひざを落とした…

「吉宗くんが…吉宗くんが………いやだ…いやだーー!」

 

「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

燃え上がる炎で赤くそまった夜空に、めぐみちゃんの悲痛の叫びが響き続けた…

続き
第99話 吉宗君はたいした男 へ

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2009年10月19日 (月)

第97話 追島と吉宗君なら、きっと…

「やっ、やめろー、馬鹿ーー!!」

ガツッ…

銀二さんの叫びも届かず、振り下ろされた刃は西条さんの肩口に鈍い音を立ててめり込んだ

「うぐおー!!」

西条さんは血走った目で振り返ると、切りかかった男を力任せに払いのけ、立ち上がって肩口の短刀に目を移し、

「ふぅーっ…」

一つ大きなため息をついた…

「危ない…危ない…、今のがもし、さっきの吉宗なみの打ち込みやったら、今頃ワイは肩から真っ二つにされとったわ…」

そう呟くと、無造作に短刀に手をかけ、ぐっと険しい顔で引き抜いた…

 

「だっ、大丈夫っすか、西条さん…」

慌てて近寄ろうとする銀二さんを、西条さんは血のついた手で制止すると、静かに笑いながら斬りかかった男に目をむけた

「踏み込みがあまいわい…踏み込みが…」

「ぐっ…あっ…おっ、おい…」

男は、後ずさりしながら仲間に救いを求めた、それにあわせて、西条さんに殴られた男が…

「なっ、なめるなコラー!」

震える手でドスを構えた…

と、その時だった…

「何をやっとるんだお前らーー!!」

突然、背後から怒鳴り声が、

「この馬鹿共がー!」

男達が慌てて振り返ると、そこには頭に包帯を巻いた、二メートルのスキンヘッド熊井さんが鬼のような顔で立っていたのだった…

 

「くっ、熊井さん!…」

「無事だったんですか?…」

「おう、俺の頭は鋼鉄製だ…それよりも、誰が、お前らにそんなもの振りまわして仕返しをしろって言ったんだ!!この馬鹿どもが!!」

「すっ、すいません、熊井さん…」

「勝手な真似しやがって…、お前らごときにかなう相手だと思っとるのか…」

熊井さんは男達を払いのけると、西条さんの前に立ち、はっと驚きの顔を見せた…

「…西条…お前その傷!?…」

西条さんは肩の傷を押さえながら薄ら笑いを浮かべると

「ほんのかすり傷や…それより熊、あれだけワイに打ちかまされて、よう生きとったもんやのう…」

「ふん…、なめるな、あんな気の抜けた打ち込みで、俺が死ぬわけねえだろうが…、それよりも、のこのこと戻って来やがって、俺がこのまま、ただで済ますと思ってるのか…」

「だから、戻って来てやったんやろが…落とし前つけにのう…」

「落とし前だ?」

「そうや、仮にも川竜一家の幹部のわれを、半殺しにしてもうた落とし前や…といっても、われにとってはかすり傷やったようやのう、ホッとしたわい…」

西条さんは、うれしそうに笑った…

 

「西条…おまえ…」

熊井さんは西条さんの様子に、首をかしげると

「お前、さっきとはまるで違う…別人の目だが、いったい?…」

「別人の目?……」

「ああ、今までの腐った目じゃねえ…昔の、そう…俺と一緒にテキヤはってたころの目だ……」

熊井さんの言葉に西条さんは、ふっと遠くを見つめると

「ああ、それやったら、さっき、ある男にぶちのめされたせいかのう…」

「お前がぶちのめされる?…」

「ふっ…、恥ずかしい話やが、めっぽう強い男が現れてのう…、ワイの得意な棒振りで、こっぴどくぶちのめされてしもたんや…」

「おっ、お前が、棒振りでだと?…」

「ああ…」

「その男ってなあ、いったい?…」 

「鬼瓦興業の一条吉宗って男や…」

「いっ、一条吉宗!?…」

熊井さんは思わず目を見開いた…同時に、熊井さんの後ろにいた男たちも、ザワツキながら驚きの顔を浮かべていた…

 

「なんや熊…、鳩が豆鉄砲もろたようなツラして…」

「吉宗が…、お前を!…」

西条さんは笑いながらうなずくと、急に真顔で後ろを振り返り…保育園の方から立ち上る煙に目をむけた

「熊…、悪いがお前との落とし前は後にしてくれんか…、あの火事、なんや嫌な胸騒ぎがするよってな…」

「火事…!?」

熊井さんはその言葉に、ふっと保育園の方角を見た

「むおっ、なっ、なんだあの煙は!?…」

「今頃気づくとは、相変わらず鈍い野郎や…、とにかくすぐに戻るよって…」

西条さんは一言そう告げると、肩を押さえたまま、ひばり保育園へ向かって走り始めた…

「吉宗が…あの西条を…」

熊井さんは走り去る西条さんを見ながら、しばらく呆然と立ち尽くしていた…

 

 

その頃、保育園では…

「ユキー!!、ユキーーーー!!」

一足先に建物のなかに飛び込んだ追島さんが、必死にユキちゃんのもとへ向かっていた…

「ちくしょう、だんだん煙で前が見えなくなってきやがった…」

追島さんは体を低くすると腕で鼻を押さえながら、煙の立ち込める奥へと向かった…

 

「ゲホゲホ…たしかあの先にユキのいた部屋があったはず…」

廊下に差し掛かった時だった、追島さんの目に、うずくまっている女性の姿が飛び込んできた…

「あんたは、たしか園長?…」

追島さんは園長を抱き起こすと、一瞬険しい顔を浮かべた…鈍器のような物で殴られたのか、園長の頭からは血が流れていたのだった…

「なっ、何だこの怪我は…おい、大丈夫か!…おい、園長!!」

園長はうっすらと目を開けると…

「ユキちゃんが…ユキちゃんが……」

必死に廊下の先を指差し、そのまま目をとじてしまった…

「おいっ!園長!!…」

追島さんは慌てて園長の胸に耳をあてると

「だ、大丈夫だ、心臓は動いている…後で戻るから待ってろよ…」

園長を安全そうな場所へ移し、一人、煙の立ち込める奥へと走っていった…

 

 

保育園の外では、消防車のサイレンがけたたましい音を立てて響き渡っていた…

サイレンの光に照らされる園庭では、心配そうに見守る、お慶さんと、めぐみちゃんたちの姿があった…

「ユキ…、ユキ…、あぁ…私がお店なんか始めたから、ユキがこんなことに…」

お慶さんは煙の立ち上る園舎の前で、泣きながらしゃがみこんでいた…

「お慶さん、だっ、だいじょうぶです…、きっと…、きっと追島さんと吉宗くんが、助け出してくれます…」

「でっ、でも、めぐみちゃん……」

「信じましょう、ねっ、お慶さん…大丈夫だって、信じましょう…」

お慶さんはめぐみちゃんの言葉に静かにうなずくと、

「神様…どうか、どうか…みんなを助けてください…助けてください…」

必死に手を合わせながら、煙の立ち上る保育園を見つめ、一瞬、はっと目を見開いた…お慶さんの視線の先、遠く離れた所に見覚えのあるスーツ姿の男が立っていたのだった… 

「けっ、研二さん?…」

男はお慶さんの元婚約者、ひばり保育園の副園長、沢村研二その人だったのだ…

 

 

「これで、この土地は俺の物だ…、燃えろ…全部、燃えてしまえ…」 

沢村はお慶さんが見ていることにも気づかず、一人薄ら笑いを浮かべながら、保育園を眺めていた…

 

「何をうれしそうに笑っとるんや…沢村…」

背後から、男の声が…沢村研二はその声に慌てて振り返った…そこには肩に手をあてながら、じっと立っている西条さんの姿があった… 

「さっ、西条さん!!」

沢村は一瞬うれしそうな顔を見せると…

「こっ、これで、あんたに金…返せますよ…、これで、はははは…」

西条さんはその言葉に顔を曇らせ… 

「思った通り…やっぱり、沢村、お前がやったんか…」

「えっ…?」

「お前が、火つけたんか?…」

沢村は静かにうなずくと、急に胸をそらせて

「おっ、俺だって、やる時はやりますよ…へへへ…見直したでしょ…へへへ…へへへへ…」

へらへら笑いはじめた…西条さんは、そんな沢村を悲しげに見ながら

「…沢村…、ワイのせいで、お前にこんな事をさせてしもうたんやな…」

「えっ?…西条さん、今、何て?…」

「ワイの軽はずみな言葉のせいで…お前に…」

西条さんは静かに頭をさげていた…沢村は不思議そうに首をかしげた

「どっ、どうしたんですか?…西条さん…これで借金が返せるんですよ…へへへ…それに、この土地は全部俺のものだ…あんたの借金返しても、おつりが来ますよ、へへへへ…」

「全部お前の?…」

「ええ、半分の権利もってた、口うるさいババアも、もういませんからね…」

「何っ!?」

西条さんの顔が、みるみると青ざめていった…

「ま、まさか我…中に人がいるの知ってて…」

「はっ、はい…、口うるさい園長と、そうそう、西条さん、あんたも聞いたら喜ぶガキが一人…中に閉じ込められていますよ…へへへ、へへへへ…」

「がっ、ガキ?…」

「はい、あんたが憎んでいる、追島の野郎の娘ですよ…」

「なっ、なんやとーー!?「」

西条さんはぶるぶると体を震わせはじめた…

「ワイの嫌な胸騒ぎは、こっ、これやったんか…」

 

「追島も、俺を振りやがったあのバツイチ女も…いいざまだ…へへへ…へへへへ…」

「何がいいざまや…」

「えっ!?…」

「自分の子供が焼き殺される親の気持ちがどんなものか、我、わかっとるんか……こっ、このガキ…」

西条さんは、沢村の首を鷲づかみにすると、そのまま頭上たかく持ち上げ、片手で力任せに締め上げた…

「このガキが…こっ、このガキが…ぐおあぁーーーーー!」

メキメキ…メキメキ…

「ぐえっ…くるしい…苦しい…西条さん……」

「おどれのようなガキは、生きとる価値もない…ぐおぉーーー!」

「くえぇーーーーー」

沢村の口からまっしろい泡がふきだしはじめた…その時だった…

「竜一さん、ダメー!!」

離れた所から女性の叫び声が…、西条さんはハッと我に帰ると、声の方に顔を向けた…そこにはお慶さんが、涙顔で立っていたのだった…

 

「お慶ちゃん!!…」

「だめよ竜一さん…ダメ…」

お慶さんは静かに首を振りながら、西条さんの腕に手をかけた…

「ユキなら、だっ、大丈夫…大丈夫だから…」

「大丈夫?…なんでや?…」

「今…追島と吉宗君が…助けに向かっているから…だから…」

「追島と吉宗が!?…」

「うん…だから、大丈夫…ぜったいにユキは大丈夫だから…」

「お慶ちゃん…」

「きっと大丈夫…、ユキも吉宗くんも…そして、追島もきっと、きっと無事に中から出てくるから…出てくるから…」

お慶さんはそう言いながらも、ポロポロと涙をこぼし続けた…

 

「お慶ちゃん、すまん…全部ワイのせいや…ワイのせいやーーーー!!」

西条さんは、顔をぐしゃぐしゃにゆがめると、力任せに沢村研二を地面にたたきつけた、そして煙の立ち上る園舎に顔を向けると…

「うおおおーーー追島ーーーー!、吉宗ーーーーー!!」

燃え上がる建物の中まで届くくらいの、大きな叫び声をあげ続けたのだった……

続き
第98話 めぐみちゃんの悲痛な叫び へ…

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2009年10月 2日 (金)

第96話 ひばり保育園での惨事…

バスの駐車場から保育園へ、僕とめぐみちゃんは目をキラキラ輝かせながら、歩をすすめていた…

「追島さん、きっと喜ぶだろうな…」

「うん…、お慶さんとの誤解も晴れて、また家族が一緒になれるんだもんね…」

「追島さん家族が、また一緒に…」

僕はそう呟きながら、追島さんの哀愁ただよう姿を思い出していた…

鬼瓦興業の倉庫の中、一人涙していた追島さん…、保育園脇の茂みから悲しげに、ユキちゃんの事を見ていた追島さん…、お大師さんの境内でユキちゃんと涙の抱擁をしていた追島さん…、喫茶慶の開店祝いに、そっとスイートピーの花束を届け、悲しげに立ち去ろうとする哀愁の背中の追島さん…その一つ一つを思い浮かべるうちに、僕の目にはいつしか涙があふれ出していた…

「どうしたの吉宗君…」

「あ、ははは…、ちょっと、いろんな事思い出しちゃって…」

「そっか…でも、泣くのはまだ早いよ、私達にはまだ大切な仕事があるんだからね…」

「そうだ…急いで追島さんに会ってお慶さんの誤解が解けた事を伝えないと…」

「さあ、急ごう…」

「うん…」

やがて僕達は、追島さんとの待ち合わせ場所、ひばり保育園横の雑木林へ到着した、

「追島さーん!…追島さーーん!」

大声で呼んだが、林の中はしーんと静まり返ったままだった…

 

「ここに居るって、銀二さんが言ってたのに…」

「吉宗君、もう、先にお慶さんと出合ったんじゃないかしら?…」

「あっ、そうかも…、僕達の来る前に、仲直りをすませて、二人でユキちゃんのお迎えに行ったのかもね…」

僕達はうれしそうに顔を見合わせた後、ユキちゃんのいるひばり保育園に目を向け、ハッと驚きの顔をうかべた…

 

「よっ、吉宗君…!何!あの煙!?…」

「…たっ、焚き火…、じゃあ、なさそうだけど…」

「まさか、こんな夜更けに焚き火のわけ…」

「そ、それじゃ…、かっ、火事!?」

「……」

めぐみちゃんは青ざめた顔でうなずいた、

「どっ、どうしてー!!」

僕は、大声で叫びながら、煙の出ているひばり保育園に向かって走った

 

近づくにつれて、保育園の窓からは真っ黒い煙りが勢いよく噴出しているのがわかった…、そこで僕は、すす汚れた体で呆然としている春菜先生を発見した

「先生!春菜先生!!」 

「あっ!」

春菜先生は青ざめた顔で振り返ると

「よっ、吉宗さん!?…大変…戻ったとき火が…追島さんが…ユキちゃんが…大変…」

ショックで動転していたのか、先生は必死に何か訴えかけてきた

「追島さん?ユキちゃん?…先生いったい!?…」

とその時だった、

「ユキー!!」

保育園の入り口近くで、数名の男の人に抑えられ叫んでいるお慶さんの姿が…

「放してー!中に娘がいるんです、お願い放して下さい!」

「気持ちはわかるけど、無茶だって…」

「放してー!お願い放してーー!!」

その光景を見た瞬間、僕の体の血がすーっと冷えていくのを感じた…

「春菜先生…まさか、ユキちゃんたちが中に…」

「はっ、はい!…まだ中に!…追島さんが一人助けにむかって…それで、私も助けようと…でも煙がすごくて…」

春菜先生はそう言うと、泣きながら、その場にうずくまった…

 

「吉宗君!…」

少し遅れてめぐみちゃんが近づいて来た…彼女は春菜先生の様子を見た後、あわてて僕に顔をむけた…

「吉宗君、まっ、まさか…」

僕は血の気の引いた顔でうなずくと

「ユキちゃん達が…中に…」

「ユッ、ユキちゃん達!?」  

「…やっと…やっと…追島さんとユキちゃんが一緒に暮らせることになったのに……」

煙りの噴出す保育園を見ながら、体を震わせていた、

 

「冗談じゃない!そんなの許せない…!絶対に許せない!!」

僕は突然大きな声で叫ぶと、お慶さんたちのいる人だかりに向かって全力で走りだしていた…

「うおおおおおおおおーーーー!!」

頭の中は、真っ白だった…、ただ、ただ、真っ白な状態で叫びながら、僕は無意識に近くにあった小さな池に飛び込むと、ずぶぬれの体で野次馬の群れを押しのけ、全力でお慶さんの脇をすり抜け…

「ユキちゃーん!!」

大声で叫びながら、煙の噴出す保育園の中に飛び込んでいたのだった…

 

「おい、今、誰か中に入っていかなかったか?…」

「ああ、たしかに、誰か、入って行ったような…」

お慶さんを抑えていた人たちが、顔を見合わせていた…

「…今の子!?…」

お慶さんも、突然起こった出来事に目を見開いていた…が、その直後、

「吉宗君ー!!」

後ろから近づいてくる、めぐみちゃんの叫び声に、思わずハッと振り返った…

「めぐみちゃん…それじゃ、今の…やっぱり吉宗君!?…」

「おっ、お慶さん、そうです…吉宗君です…吉宗君なんです!…」

めぐみちゃんはそう言いながら、ポロポロと涙をこぼしていた…そんな彼女を見て、お慶さんは我に帰り…

「なっ、なんてことを…」

「吉宗君…吉宗君…」

「あぁ、神様…どうか皆を助けて…」

二人はそう呟くと、じーっと保育園を見つめていた…

 

 

そのころ、保育園の駐車場では、一人バスから降り立った西条さんが、あたりをそっと見渡していた、

西条さんは、ふっと口元に笑みを浮かべると…

「おい、そこに誰ぞおるんやろ…隠れとらんで出てきいや…」

暗がりに向かって話しかけた…すると、西条さんの言葉に反応するように、影から数名の若いガラの悪い男達が姿を現し…

「さっ、西条…こっ、この野郎…」

震えながら、必死に睨みすえていた…

 

「なんや?お前ら、前に見たツラやな…、」

西条さんは両手をポケットに入れたまま、男達に近づくと

「おう、何や我ら、ワイがまだ一家におったころ見習いでバイトしとった兄ちゃん達やないか…、えらい出世したもんやのう…」

「えっ、えらそうに…、この野郎!!…、さっ、西条!…てめえよくも熊井さんを…」

「あ~?…」

「あ~じゃねんだよ、うちを破門された分際でのこのこ姿現しやがってよ、こらー!!」

男達は口々に罵声を浴びせながらも、その場で足を震わせていた…西条さんはそんな連中に呆れ顔で

「なんや…威勢のわりに足が震えとるやないか、兄ちゃんら…」

「うっ、うっ、うっ、うるせえ、この野郎…」

男達は必死に叫ぶと、震える手で後ろの腰に手をまわし、さっと光る物を取り出した…

 

「ほーう、ドスか…、えらい物騒なもんもっとるやないか…けどそんな震えた手で、うまく使えるんかのう?…」

「なっ、なめんなー、こっ、コラ!!」

「黙って、ツッ、ツラかせや西条…」

西条さんはしばらくの間、静かに男たちを見ていたが、突然カッと目を見開くと

「じゃかしいやー、このガキどもがーーー!!」

突然、大声で、どなりつけた…

「うぐっ…」

チンピラ風の男達は西条さんの迫力に、慌てて後ずさりした

 

「腐っても、川竜で看板はっとった西条竜一や!…、我ら三下どもが口の利き方に気をつけいや!!…」

鬼の形相で、男達に近づいていった…

「ええかコラ、よう聞け坊主ども!…ドス言うもんは、そないに軽く抜くもんちゃうど!!…いっぺん抜いた以上、やるかやられるか、命がけで抜くもんや!…それをわかった上で抜いたんやろうな!!…」

「あっえっ!…」

「我らが本気で来るなら、ワイも死ぬ気で相手したるわい…、コラー、おのれらも、やるからには、死ぬ気で来いや、おー!!…」

そのすさまじい迫力に、男達は、ただ無言で振るえ続けていた…西条さんはさすが日本一の剣術家…その気合で相手を呑みこんでしまったのだった…

 

「さすがは、西条さんだ…、これじゃあ、かなわねえな…」

今までの様子をじっと見ていた銀二さんが、くわえタバコでバスから降りてきた…銀二さんは男達に目を向けると笑いながら…

「おい、お前ら…命は大切にしねえとな…、この人はマジだぜ…」

「あっ、あんたは鬼瓦興業の銀二さん!?…どっ、どうして……」

男の一人が救いを求めるような目で声をかけた…

「ちょっと、訳ありでよ…、それよりお前ら、熊井さんがやられて必死な気持ちはわかるが、その物騒なもん、いっぺんしまわねえか?…」

「でっ、でも…、銀二さん…」

「心配するな、この人はもう逃げも隠れもしねえって言うからよ…そうでしょ、西条さん…」

銀二さんに声をかけられ、西条さんは静かに笑った…

「ああ、ワイもまだ死ぬわけにはいかんし、それに、こない若い兄ちゃんらの命、奪いとうないからの…」

「し、しかし…」

「心配するな、ワイは逃げも隠れもせん…熊井との落とし前はきっちりつけさせてもらうよって、川竜の親父の元へ案内せいや…」

「えっ、親父さんの元へ?…」

「おう、そこで煮て食わられるなり、焼いて食われるなり、後は親父まかせや…さあ、案内せいや…」

西条さんは、鋭い目で笑いながら、男達に近づいていった…

 

と、その時だった…

「火事だーーーー!!」

保育園の方角から、かすかな声が響いてきた…

「んっ?…」

西条さんは眉間にしわをよせながら振り返ると、

「銀二…今向こうから、火事って声が聞こえんかったか?…」

「たしかに、聞こえたような…」

銀二さんも慌てて保育園の方角を見た…

「うわっ!…なんだあの煙は!?…」

「やけに、さっきから焦げ臭いにおいがする思うたら、なんちゅうこっちゃ!?…」

西条さんは煙の立ち上る園の方を見て、ハッと何かを思い出した…

 

「まっ、まさか…沢村のガキが…!?」

西条さんの脳裏に、自分が悪鬼だったときの、沢村研二との会話が蘇ってきた… 

 

(沢村はん、ここは死んだあんたの親父さんが建てた、歴史ある保育園言うとったな…)

(あ、はい…)

(何が歴史や…、ただの木造のおんぼろ建物やないか…こらあ、火でもつけたら、よう燃えるやろうな…ははは…)

(火をつけるって!西条さん、ま、まさか…) 

(何や?…沢村はん、あんた何ぶっそうなこと考えとるんや、あかんで、そんななことしたらあかんで、はははは…)

 

「…沢村のガキ、ワイのあの時の言葉で…」 

西条さんは青ざめた顔で、煙の立ち上る保育園の方を見ていた…そんな西条さんに川竜一家の連中が

「おっ、おい…どこ見てんだよ…、西条…まっ、まだ話の途中だろうが…」

「おっ、おいこら…そんな火事なんて関係ねえだろ…一緒に親父の所に来いよ…」

男達の言葉に西条さんはムッと目を見開いた…

「火事なんて関係ない?…」

「そうだよ、たかが保育園の火事、関係ないだろうが…それとも、それを理由に逃げる気じゃねえだろうな…」

「たかが、保育園の火事?…我、今なんちゅうた…」

「えっ、あっ…」

「こんの、腐れガキがーー!!」

ガゴッ!!

叫ぶと同時に西条さんは大きな拳で、一人の男の顔面を張り倒した…

「関係ないとは何や!…おのれら、親父や熊井から、何を教わってきたんや!?…川竜一家の看板しょっとるのとちゃうんか、コラ!!」

「なっ、なに!?…てっ、てめえこの野郎!!」

隣にいた男が、あわてて手にしていたドスを構えた…

「我らにかまっとる暇はないわい…落とし前は後や!!」

西条さんは言うと同時に振り返り、保育園へ走り出そうとした…が、その瞬間、足元に転がっていた車止めにつまずき、その場でバランスを崩した、同時にドスを構えた男が

「逃がすかコラーー!!」

小刀を振り回しながら、夢中で西条さんの背中めがけて斬りかかった

「やろうー、西条ーー!!」

「やっ、止めろ、馬鹿ー!!」

男の怒鳴り声と同時に、銀二さんの叫び声が、駐車場内に響き渡った…

続き
第97話 追島と吉宗君なら、きっと… へ

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2009年9月14日 (月)

第95話 西条竜一という男

「春菜先生…こっち…」

ひばり保育園に隣接する雑木林から、野太い声が響いてきた…、春菜先生が振り帰ると、そこには鬼瓦興業の鬼軍曹、追島さんが、木陰にひっそりたたずんでいた…

「あっ、追島さん……」

春菜先生がそっと近づくと、追島さんは手に持った携帯を指差し

「今、うちの若いもんから連絡があってね、見つかりましたよ…園バス…」

「えっ!…ほっ、本当ですか?…」

「はい、今こっちに向かってます…うちの連中も一緒にね…」

「うちの連中?…」

「ええ、どういったいきさつか知りませんけど、吉宗にめぐみちゃん、それにびっくりするゲストもいるって…」

「ゲスト?…」

「ええ、銀二の野郎、もったいぶってそう言ったあと、電話切りやがって…」

少し呆れ顔で首をかしげた…

 

「追島さん、あの…それじゃ、三波先生も?…」

「ああ、あの男…、ええ、やつも一緒ですよ…、聞けば吉宗が一人で落とし前…、あっ、いや、解決させたらしくて…、」

「吉宗さんが、解決?…」

「はい・・・、まったく、何が何やらさっぱりで…」

「はあ…でも、みんな無事に戻って来るんですね、良かった…」

春菜先生はホッと小さなため息をついた…

と、その時だった…ブーッ、ブーッ…、追島さんの携帯のバイブが静かな雑木林に響いた、追島さんはそっと振り返り、春菜先生に背を向けると、

「おう、銀二か、どうした?…」

電話相手の銀二さんと話し始めた

「何?…西条も一緒!?…」

「………」

「あぁ?…野郎も一緒に来てどうするんだ……」

「………」

「おい、銀二…、やつと代われ…」

追島さんは急にイラついた顔で怒鳴った後、ハッと後ろの春菜先生に振り返った…

 

「あっ…!すいません先生…」

「あの…何か問題でも?…」

「いや…、先生が心配するような事じゃありませんから…」

追島さんは春菜先生にそう言うと、再び振り返って電話を耳にあてた…そしてしばらく無言でうなずいていた後、

「野郎、電話に出ないってのか?…」

「………」

「久しぶりに俺に会いたい?…そんな悠長な事、言ってんのかあのバカ…、いいか銀二、やつの落とし前は俺がきっちり付けるから、とにかく今は西条を連れて来るな…」

追島さんはしばらくそんなやり取りをした後、ふっとため息をつきながら電話を切った…春菜先生はそんな追島さんに 

「あの…西条さんを連れて来るなって?…」 

「あっ…、先生には関係ない話です…」

「えっ!でも…」

「ははは、先生の惚れてるあの男は、大丈夫だから…心配しなくていいですよ…」

「そんなこと言っても…」

春菜先生の心配をよそに、追島さんはそっとタバコを取り出し火をつけると、少し怒った顔で、明かりの付いた保育園の方を見た…

「そんなことより…ユキはまだ迎えに来てもらえんのですか?…」

「あっ…、はい…」

「まったく、店と子供とどっちが大事なんだ…あのバカ…」

眉間にしわをよせながら、ふっとタバコの煙を吐き出した…と、同時に

「あれ?…」

真剣に園の建物を見た… 

「先生…なんだ、あの煙は?…」

「煙?…」

「ほっ、ほら…あそこ!…あの建物の裏側から出てる煙!…」

「えっ!…、あっ!?」

春菜先生は、追島さんの指差す方を見て思わず青ざめた…

 

  

そのころ、バスの中では…

電話を切った銀二さんが、後部座席の西条さんの隣に腰を下ろすと、小声でそっと話しかけた

「西条さん、かっこつけてる場合じゃないでしょ…後は追島の兄いに任せて、言われる通り西に戻ったほうがいい…」

「……」

「なあ、俺はあんたのためを思って言ってんだ…」

「……」

「おい、シカトはねえだろ?…」

西条さんはしばらく外を見た後

「銀二って言うたな、お前…」

「はい…」

「追島も、お前も、心配してくれる気持ちはありがたいがの…、ワイはもう逃げる気は無いんや…」

「えっ?…」

「大事な事、教えてもろた後や、逃げたらすべて台無しやからの…」

「台無し?」

「ああ、どんなことがあっても逃げないで、命がけで闘わなあかん…」

西条さんは、めぐみちゃんの隣の席で、うとうとしている僕の事を見た…

 

「あの兄ちゃんは、逃げんかった…最後の最後まで、逃げんで大切なもんを守りおったんや……」

そう言いながら立ち上がると、数歩、前に出たところで振り返り

「だからワイも、どんな事からも逃げん…あの兄ちゃんに負けてられんからの…ははは…」

澄んだ目で笑いながら、前列の方へ歩いていった…そして揺れるバスの中、お慶さんの隣の席に腰を下ろすと 

「お慶ちゃん…」

かつてのやさしい笑顔で話しかけた…

 

「お慶ちゃん…追島と別れた理由、ワイが原因やったんやてな…」

「えっ?…どうして?」

「さっき栄二から聞かされたんや、ワイが君枝のことをソープで働かせて、追島と喧嘩になったせいやって…」

「栄ちゃんがそんな事を?…もう、おしゃべりなんだから…」

「すまんのう…ホンマにすまんかった……」

「ちょっと、竜一さんが謝ることじゃないわよ…私が悪いんだから…」

「お慶ちゃんが?…」

「ええ、私が…、彼のことを信じてあげなかったから…」

お慶さんは、そう言いながら悲しそうにうつむいた…

 

「けどお慶ちゃん、追島のアホ、あんたにホンマの事、何も話さなかったんやろ……」

「うん…留置場に面会に行ったときも、むっつり黙ってただけで…」

「まったく…どこまで不器用なやつや、そないな大切な事を話し忘れるとは…」

西条さんは呆れ顔で天井を見上げた…お慶さんはふっと寂しげに笑いながら

「私も始めそう思ったんだけど、彼、話し忘れたんじゃなくて、わざと話さなかったのよ…」

「わざとって、それじゃ、あいつ、ソープ嬢に惚れてその男と喧嘩した、ただのアホな悪者やないか?」

「うん…」

「なっ、なんでや?…なんであのアホ…」

「追島なりの罪の償いだったんじゃないかな…竜一さんに対する…」

「ワイに対する?…」

「ええ、健太君を亡くした竜一さんの気持ちも考えず、感情で暴れてしまった、罪のつぐない…、あの人だったらありえるかなって…」 

「あのダボ…ほんまにアホなやつや、ワイなんぞのために…」

西条さんはぐっと目頭を押さえた…

 

「さあ、昔の話は終わり終わり…」

お慶さんは、大きく息を吸いながら、明るく笑うと

「深呼吸、深呼吸…竜一さんも大きく息をすって…」

「はぁ?」

「忘れたの、深呼吸よ…、お互い、くよくよしたって始まらないでしょ、さあ、竜一さん…」

「あっ!、せやな、深呼吸やな、ハハハ…」

西条さんはハッと明るい顔になると、お慶さんに習って大きく息をすいはじめた… 

「何やなつかしいな、昔もよく、お慶ちゃんにこうして深呼吸させられたな…」

「そうね、なつかしいね…」

「ああ、川竜の親父に怒られて落ち込んだとき、ようお慶ちゃんに励まされながら深呼吸したの思い出すわ…追島のアホも巻き込んでな…」

「あの人いやがってね…」

「そうやったな、何で俺までなんて、ぶつくさ抜かしおって…はははは…何や楽しかったあの頃の事、どんどん思い出すなぁ…ははは…」

「大きく息を吸うと、こんなにすっきりするのに…、気がつくと私もここ数年、やってなかったな…だから本当に笑えなかったのかも…」

「ワイもや…健太が死んで、こないに明るい気持ちで息をすうことも無かったわ、はははは…」

西条さんは晴れ晴れした顔で、息を吸い続けていた…

「でも、うれしいねぇ、こうして昔のように竜一さんと、楽しくお話ができて…」

「ああ、ワイもうれしいわ…それもこれも全部、あのお兄ちゃんのお陰やな…」

西条さんはいつの間にかめぐみちゃんと二人寄り沿って眠っている、僕の方を見た…

Basunonaka  

「不思議な子でしょ…吉宗君って…」

「そうやな、何や知らんが、見てるだけでホッとやさしい気持ちになれる…、ああして闘った相手や言うのにな…」

「ふふふ…そう言えば私も…」

お慶さんは初めて僕と出合った、お大師さんの境内での事を思い出した…

「最初はこの子、初対面の私に食って掛かってきたのよ…ユキちゃんがかわいそうれすら~なんて、ボロボロと涙をこぼして…、」

「ほう、お慶ちゃんともそんなことが…」

「私ね竜一さん…」

「………」

「私、実は今日まで…、追島のことを、ずーっと憎んで生きてきたの…追島の本当のやさしさも知らずに、勝手に裏切られたなんて勘違いして…でも、その憎しみの氷も、あの子が溶かしてくれたのよ…」

お慶さんはそっと僕に目を向けた 

「ワイも同じや…何やちいと大げさかもしれんが、地獄の底から抜け出させてもらった、そんな気持ちや…」

西条さんとお慶さんは、過去の憎しみに満ちた目ではなく、本当に優しいまなざしで、静かに眠る僕の事を見つめていた…

 

「そうや、お慶ちゃん…あんたに大事な話、せなあかんと思うとったんや…」

「大事な話?…」

「お慶ちゃんの婚約者のことやが……」

「え?」

「…あのな、実は、ワイ知っとるんや…お慶ちゃんの婚約者のこと…」

「知ってるって…研二さんのこと?…」

「ああ、よう知っとる男や…、ただ、その沢村研二やが、お慶ちゃんの婚約者やから、実に言いにくいんやが…」

西条さんは頭をボリボリ掻き、口ごもらせながら

「あのなあ…あの男と結婚するのは、止めた方がええ…」

そう言った後、そーっとお慶さんを見た…

お慶さんははじめ、その言葉に目を丸くしていたが、すぐにニッコリ笑うと

「彼だったら、もう別れたから…婚約者でもなんでもないわよ…」

「はっ!?」

「さっき、婚約を解消してもらったの…お陰で、こんな顔にされちゃったんだけどね…」

沢村に殴られた顔の傷を、恥ずかしそうに西条に向けた…

「何や、さっきから気になってたんやが、その顔の傷、沢村の野郎がやったんか!…」

「ええ、彼、婚約解消を告げられて、突然豹変してね…、まあ、男を見る目がなかった、私が悪いんだけどね…」

お慶さんは明るく笑った…

 

「あのガキ、ようもお慶ちゃんに…あとでたっぷり仇うったるわ…」

「いいのよ、仇だったら、栄ちゃんが打ってくれたから…」

「栄二が?…」

「ええ、すっきりするくらいガツンってやってくれたから…」

「栄二にか、そらあやつも参ったやろうな…、ははは…、そうか、そやったら良かった…」

 

「あっ、あの…」 

二人の会話をさえぎるように、運転席から小さな声が聞こえてきた…

「あの…もう少しで保育園に着いちゃうんですけど…」

そこには、見るも無残なボロ雑巾のようなイケメン三波が、ハンドルを握りながら青ざめ顔で後ろを見ていた…

「あの…西条さん…本当に着いてしまうんですけれど…よろしいんですか?…」

「よろしいんですかって、何やお前、真っ青な顔して…」

「だって、西条さん……」

三波は半べそをかきながら、脅えるような目で、ミラー越しに西条を見た…

「何や、アホたれ、心配せんで早く、車庫に入れいや…」

「あっ…はっ、はい…」

イケメン三波改め、ボロ雑巾三波は、西条に言われるまま、しぶしぶバスを保育園から少し離れた駐車場に入れ、その扉を開いた…

 

「すごく待たせちゃったから、ユキ、きっとかんかんに怒ってるわ…」

「そうか、お慶ちゃん、先に降りて急いで迎えに行った方がええ…」

「そうね…」

お慶さんはにっこり笑うと、あわててバスを降りて、駐車場から少し離れた保育園の入り口へと走って行った…西条さんはそんなお慶さんの後ろ姿を、バスに腰かけたまま、すこしさみしげに見つめていた…

 

「ヨッチーちゃん、付いたわよヨッチーちゃん…」

「むにゃむにゃ…」

「まあ、ヨッチーちゃんったら、本当にかわいい寝顔だこと…」

女衒の栄二さんはうれしそうに僕のほっぺたをベロッと、まるで牛タンのようなべろで舐めてきた…

「うぐぁーー!」

僕は突然のざらついた感触に、あわてて目を覚ました…、

「なっ、何するんですか栄二さん!」

「何ってモーニングキッスじゃないの、ホホホホホホ…」

「モッ、モーニングって…」

そんな僕の慌てた声に

「あぁ、寝ちゃってたんだ私たち」

隣のめぐみちゃんも目をさました…そんな彼女に栄二さんは

「何よめぐっぺも起きちゃったわけ?…ずーっと寝てればいいのに…」

「何言ってるのよ…さあ降りましょ吉宗君…」

「うん…」

僕はめぐみちゃんに手をひかれて、保育園バスから降りかけ、ふっと後ろを振り返った…そこには、シートに腰かけたまま、うれしそうに僕たちを見送っている、西条さんの姿があった

「西条さん、降りないんですか?…」

「ワイは最後に降りるから、先に追島のところに行っててくれや…」

「はっ、はい…」

僕はそのまま振り返ると、バスの階段を降りて行った…西条さんは僕とめぐみちゃんがバスから離れていったのを確認すると、

「栄二!…」

近くにあったセカンドバックを手に、栄二さんを呼び止めた

「なによ、竜一…」

「お前に頼みがあるんや」

「頼み?」

「ああ、実はな、この中に、ワイの通帳とハンコが入っているんやが、これをここに届けてほしいんや…」

西条さんはバックの中から一枚のメモを取り出した

「何よ、私は宅配屋さんじゃないわよ…」

栄二さんはぶつぶつ呟きながら、西条さんの手にしたメモを受け取った…そしてじっとそれを見たあと、真剣な顔で顔をあげた

「すすきの!…あんたこれ、ソープランドの名前じゃない…」

「ああ、その店に、小雪ゆう女が勤めてるんやが、その女にそれを渡してやってほしいんや…」

「竜一あんたまさか、この小雪って…」

「ああ、君枝や…ワイの元女房のな…実はそうとう不良がらみの借金もあるようでな、頼むは栄二…こんなこと頼めるのは、女衒の栄二、お前しかおらんのや…」

栄二さんはしばらく西条さんを見た後、

「わかったわ、少しの間預かっておくけど、これを札幌まで届けるのは、あんたの仕事だからね…」

そう言いながら出口にむかい、そこでふっとボロ雑巾三波に目を止めると

「そうだ、あんた…」

目玉をギラギラさせながらやつの首根っこをむんずとつかんだ、

「うわー、うわー、ちょっと何ですかー!?」

「うるさい!あんた今日から私の弟子になりなさい…」

「で、弟子!?」

「私のもとで一流の女衒に仕込んだげるから…、いいわね竜一、この子もらって行くわよ…」

「おう、好きにせいや…」

「えー、ちょっと西条さん!?」

「ぎゃーぎゃーうるさい!」

栄二さんはその大きなエラを三波の口の中に突き刺すと

「女衒とスケこましは違うんだからね、あんたそれを間違えたら、この玉ひっこぬいてやるから、覚悟しなさいよ…」

ボロ雑巾三波の股間をむんずと鷲づかみにしながら、泣き叫ぶやつといっしょに外へ出て行ってしまった…

西条さんはそんな奇妙な光景を笑いながら見ていたが、しばらくして、ふっと立ち上がると、

「おう、銀二…」

後ろの席の銀二さんを見た…

 

「すまんが、追島に一言、伝えてくれんか…」

「なんすか?」

「このお人好しのアホたれが…、お慶ちゃんとユキちゃんを大事にせんと、今度はワイの剛剣で我のどたまかち割ったるから、覚悟しとけ!……、そない言うといてくれや…」

 

「西条さん、あんたまさか、死ぬつもりじゃ?」 

「死ぬ?……アホ…、さっき言うたやろが…」

「…?」

「最後まで逃げん、あの兄ちゃんに、そう教わったって…」

「でも、西条さん…」

「ええか銀二、己で死ぬいうのは、逃げるのといっしょや…、わいは絶対に、最後まで逃げたりせん…」

西条さんは、晴れ晴れとした笑顔でそう言うと、さっと振り返って一人バスを降りていった…

 

「ふっ…、浪速のおっさんが、かっこつけやがって…」

銀二さんは、ニャッと笑うと

「だったら、追島の兄いへの伝言、あとで自分で言いなよ…」

西条さんの背中に向かって大声を叫んだのだった…

続き
第96話 ひばり保育園の惨事 へ…

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2009年8月30日 (日)

第94話 吉宗くんは日本最強!

「ぐはぁ、ぐはぁ…」

木刀を握り締めた西条竜一は、苦しそうな息づかいで、じっとこっちを見ていた…

「ぐはぁ、はぁ…」

僕は、そんな西条から、一生懸命、目をそらさずに、

(桃さん…桃さん…)

心の中で、桃太郎侍さんを呼び続けた、しかし、桃さんはすでに僕の体から離れ、消えてしまっていたのだった…

(そっ、そうだ…桃さんはもういなかったんだ…)

 

「小僧~!…」

西条は、一言つぶやくと、一歩足を近づけてきた…、   

「めっ、めぐみちゃん!こっち…」

無意識に彼女を後ろに隠すと、僕は足を震わせながらも、必死に西条を睨み続けた…

ところが…

カラン!

西条は突然手にしていた木刀を後ろに放り投げると、その場で目をとじてしまった…

「えっ?…」

僕達は目を丸くしながら、じっと目を閉じている西条を見ていた…と、そんな時、今まで震えていた鉄が、  

「おう…こっ、こらっ!…兄貴にやられたくせに、何を、すっ、…すかしてやがんだ…こっ、この野郎!…」

「わっ、やめろ、バカ!…鉄!!」

「いやっ、兄貴は黙って見ててください…あとは、俺がきっちり落とし前つけてやりますから…おうこら~、何黙ってんだよ、このやら~!」

「………」

「何シカトしてんだよ…こっ、こっ、こら~!」

調子に乗った鉄は、西条の胸ぐらをつかんだ…と、その瞬間…今までじっとしていた西条がカッと目を見開き…

「どけっ!!」

その大きな手で、力いっぱい鉄の顔面を張り飛ばした…

バゴッ!!

「ふんがぁ~!!」

踏み潰された蛙の鳴き声のような、あわれな声とともに、鉄はその場から数メートル吹き飛ばされ、ボロボロの歯をおっぴろげて気絶てしまったのだった… 

(だっ、だからやめろって言ったのに…)

僕は情けない顔で鉄を見た後、そっと西条に目をむけ、ハッとした…、僕の前に立っている西条竜一の目は、今までの悪鬼のようなものから、澄み切った優しい目に変わっていたのだった…

 

「えっ…?、えっ、あの?…」

首をかしげている僕たちを、西条はやさしい目でじーっと見ていたが、やがて、

「参ったわ…あそこであんな鋭い突きを出してくるとは…ほんまに参った…完敗や…」

そう言いながら、ガクッとその場に膝を落とした…

「あっ!…だっ、大丈夫ですか?…」

あわてて近寄ろうとする僕を、西条は手で静止すると、今度は僕の後ろにいためぐみちゃんに目を移した…

「姉ちゃん…あんた、この兄ちゃん以外には、指一本ふれさせん言うたな…」

「はっ、はい…」

「あんた、男を見る目があるわ…」

「えっ!?」

「この兄ちゃん、ほんまもんや…、ほんまもんの男や…ええ男や…」

今までとはまるで別人の、とても優しい目で微笑んだ…めぐみちゃんはその言葉に、思わず頬をそめながら

「はっ、はい…吉宗君は、世界一なんです…」

今まで恐ろしい目にあわされたにもかかわらず、素直に微笑み返していた…

 

「世界一か…ははは……」

西条は一瞬うれしそうに笑ったあと、急に真剣な顔で手をつくと、僕たちに深く頭を下げた…

「詫びてすむもんやないが…、ほんまにひどいことして、すまんかった…」

「はっ!?」

「ほんまにすまんかった…」

「あっ、いや、あの…ちょっと…」

急に頭を下げられ、僕はあわててめぐみちゃんを見た

「あの…手をあげてください…」

めぐみちゃんは、そう言いながら西条に近寄ると… 

「あなたは、結局、私に何もしなかったじゃないですか、だから…、手をあげて下さい…」

「すまんかった…ほんまにすまんかった…」

西条はじっと腕をついて頭を下げ続けていた…、

 

「やっぱり、僕の思ったとおりでした…」

「思った通り?…」

「はい、貴方は、悪い人じゃなかった…、貴方の目は、うちの親父さんや、追島さんと同じ、怖いけど、その奥にやさしさが隠れている気がして…だから…」

僕の言葉に西条は思わず顔を上げ…

「ワイが、鬼辰の親父や追島と同じ目?…」

そのまま眉間にしわを寄せた、

「ワイが、…同じ目…、まだ、同じ目しとったんか…ワイが…」

ぶつぶつと一人呟きながら、じっと遠くを見つめていた…

  

「あの…鬼辰の親父って…あなたは御存知なんですか?…鬼瓦のおじさん達のこと?…」

めぐみちゃんの問いかけに、西条は静かにうなずくと、

「よう知っとる…なんせ昔は、ワイも、この兄ちゃんと同じテキヤやったからな…」

「テキヤだった!?…」

「ああ…」

西条は少し寂しげにうなずくと、そのまま夜空を見上げて、

「こんなワイが…まだ、鬼辰の親父たちと同じ目をもっとったとは……健太…お前のおかげかのう…おまえの…」

まるで、見えない誰かに話しかけるように、ぶつぶつと独り言を呟いていた…、僕達はそんな西条のことを静かに見つめていたのだった…

 

どれくらいたったか…、やがて、西条は、何か吹っ切れた、そんな晴れやかな表情で、僕達に顔をむけると  

「やっぱりワイは間違っとった…兄ちゃんに一発もらって、ほんまにようわかったわ…というか、大事なことを教えてもろた…」

「教える?…」

「ああ、ほんまの愛っちゅうものに勝てるもんは無い…、兄ちゃんはほんまに、その愛ちゅうやつで、守り抜きおったからの…」

「はっ?…」

「命をかけて、ほんまに大切なものを守りおったんや…兄ちゃんは守り抜きおったんや…ふふふ…」

「…あっ!…」

僕はめぐみちゃんのことを照れくさそうに見つめた…

「…よっ、吉宗君…」

彼女も僕を見て、ポッと頬をそめてきた…西条はうれしそうに、そんな僕たちを見ながら

「こんなにええ二人に…ワイはもう少しで取り返しのつかんことを、してしまう所やった…ゲホッ、ゲホッ…」

深々と頭をさげながら、僕が突き上げた喉元をを抑えて、むせかえっていた…

「だっ、大丈夫ですか?…」

「だっ、だいじょうぶ、だいじょうぶや…ゲホッ、」

「すっ、すいません…」

「何で、兄ちゃんが謝るんや…ははは…、ゲホッ、ゲホッ…しかし、ほんまにすごい突きやった…現役から遠ざかったとは言え、長いこと棒振りやっとって、初めてやあんあに鋭い突きをくらったのは…」

「あっ、あれは、ぼっ、僕じゃなくて、僕に憑依した桃さんが…」

「桃さん?」

「はい、桃太郎侍さんが僕に憑依して…」

「桃太郎侍?…憑依?…」

西条は驚きの顔で僕を見た後、

「ぐはははは、ぐはははっはははっはっは…」

おなかを抱えて笑いながら、めぐみちゃんを見た

「あんたの彼氏、おもろいやっちゃな~!…がははははは…」

「そっ、そうなんです…さっきから彼、そればっかり…」 

「そしたら、ワイは桃太郎侍に負けたんか?…鬼退治されてもうたんか?…はははは、そらあ、勝てるわけないわ…桃さんじゃ、勝てん勝てん…ははははは…」

「あの、だから、冗談じゃなくて本当に桃さんが…」

「おもろいわ、ほんまに兄ちゃんおもろいわ、はははは」

「ふふふふ、考えると面白い…ふふふふ…」

「えっ、だから…はあ、ははは…」

いつの間にか、僕たちは今まで起きた事件や、わだかまりなどすっかり忘れて、笑い続けていたのだった…

 

そんな時、遠くはなれた倉庫の方から、聞き覚えのある甲高い奇声が響いてきた…

「ヨッチ~ちゃーーーーーーーーん!!」

「…こっ、この声は!?…」

僕は恐る恐る奇声の発せられて来る方角を見た… 

「いたわ~!いたわよ~お慶ちゃん、銀ちゃん、ヨッチーちゃんよ、ヨッチーちゃーーん!!」

予想の通り奇声の主は、女衒の栄二さんその人だった…栄二さんはよほど僕を心配したのか、ぐちゃぐちゃに泣き崩れた、それはすさまじい顔で僕たちの方に向かって、おネエ走りで近づいて来ていた…

 

「えっ、栄二さん!!」

「あ~!、よかったわ~ヨッチーちゃん、無事だったのね…もう私、心配で心配で…」

大声で叫びながら、僕の体に巻きつくと、得意のオロチのような舌をべろべろさせながら、大きなエラをグリグリと僕の顔面に尽きさして来た…

「ぐあっ、痛い…痛いです、栄二さん…」

「何を言ってるのよ、もう!…、一人で飛び出していって、あたしがどれだけ心配したと思ってるのよ…バカ、バカ!!ヨッチ~ちゃんのバカ~ん!!」

栄二さんは泣きながら、首を横に振って、その大きなエラを僕の顔にガンガンとぶち当てて来た…

 

「ちょっと、栄ちゃん!…そんな大きなエラ振り回したら、私の吉宗君が怪我しちゃうでしょ!…放れなさいよ!!」

「あらっ、誰かと思えば、イケメン男にホイホイとお尻を振ってくっついて行った、バカ娘も一緒だったわけ…」

「ホイホイお尻を振ってって?…何、変な事言ってんのよ!」

「あらっ、本当の事言って何が悪いんだわさ、ホホホホ…、イケメン保父にお尻振ってバスに乗り込んだくせに、おかげでヨッチーちゃんが、危険な目にあったんじゃないの…」

「まあ、あったまきた…栄ちゃんでも、絶対に許せない!」

「何よ、どう許さないって訳…」

「こうよ!」

めぐみちゃんはグッと爪を立てると、栄二さんの大きなエラをかきむしり始めた…

「きゃー、痛い、痛いじゃないのさ…このチンチクリン娘が!」

「ちょと、めっ、めぐみちゃん…栄二さん…」

僕は額から数本の青筋を垂らしながら、二人の闘いをなすすべも無く見ていた…、

 

「ほう、なんや兄ちゃん…、かわいい彼女がおりながら、オカマとも二股かけとったんかいな…両刀使いとは、まったく、大したもんやな、はははは…」

「えっ!…あっ、違います…あの人は栄二さんって言って…」

「女衒の栄二やろ…」

「えっ?…」

「ワイのまぶダチや…残念ながら、向こうは今じゃ、そう思うとらんやろうがの…」

西条は寂しげにそう言うと

「おいっ!女衒の栄二!!」

大声でそう叫んだ…

 

「えっ?私を呼ぶのは何方かしら?…」

栄ちゃんはキリンのように首をぬっと持ち上げると、声の方に目を向け、突然今までのやさしい顔から、ぐっと真剣な顔になった…

「りゅっ、竜一!?…」

「ひさしぶりやのう、栄二…」

「竜一、あんた…」

怖い顔をした栄二さんの後ろから、今度はお慶さんが近づいて来た

「竜一さん!?…やっぱり竜一さんね…」

「おっ、お慶ちゃん?何だ、お慶ちゃんじゃないか…」

「あぁ、やっぱり竜一さんだったのね…」

「これまた久しぶりやなぁ、ここでお慶ちゃんと会えるとはのう、ははは…」

「ハハハじゃないでしょ、竜一、あんた…」

栄二さんは急にあたりを見渡し、黄色い保育園バスを見た…、そして、はっと、めぐみちゃんに振りかえると

「めぐっぺ…そうだわ、あんた…大丈夫だったの?…」

「えっ?…大丈夫って…」

「竜一とイケメン保父に、変な目にあわされたんじゃ…」

「あー、それ…」

めぐみちゃんは、うれしそうな笑顔を浮かべ、隣にいた僕の腕に手をまわしてきた

「それだったら、大丈夫よ…、私の吉宗君が、真実の愛で守ってくれたから…真実の愛でね…」

「真実の愛?…ヨッチーちゃんが守る???…」

栄ちゃんは、憎らしそうにめぐみちゃんを見た後、西条の方に目を向けた…

「ああ、始めはこの姉ちゃんを襲ったろう思うたのやがの、この兄ちゃんに、こっぴどくぶちのめされて、あわれ、このざまや…」

西条は腫れ上がった喉を、栄二さんとお慶さんに向けた…

「ヨッチーちゃんに、ぶちのめされた!?…」

「ああ、ワイの強烈な面をかわされ、見事な突きを食らってしもうたんや…」

「面に突きって、それじゃ竜一、あんた、ヨッチーちゃんと剣術で闘ったの?」

「ああ、ワイの得意な棒振りで、見事にぶちのめされてしもうたんや、はははは…」

「ヨッチーちゃんが、剣術で竜一を…」

「吉宗君が、…うっ、うそ…」

栄二さんとお慶さんは、驚き顔で僕の事を見た…

 

「えっ?…どうしたんですか?…お慶さん、栄二さん…」

「ヨッチーちゃんが浪速の武蔵を、剣術で負かすなんて…」

「浪速の武蔵?…あれ、どこかで聞いたような………浪速の?…」

僕はそこで、ハッと子供のころに夢中で見た、剣道大会のテレビを思い出した…

(そういえば昔、全国剣道選手権で三連覇を成し遂げた、伝説の剣術家が、浪速の武蔵そう呼ばれていた…名前は確か、西条?…西条…)

「浪速の武蔵、西条竜一!?」

僕は大きな口を広げながら、栄二さんとお慶さんを見た…

「あらっ、西条竜一って、ヨッチーちゃんも知ってたの?…竜一のこと…」

「知ってるも何も、子供のころあこがれた、伝説の剣士ですよー!」

慌てて西条を見ると 

「それじゃ僕は、日本一の剣術家と闘ってしまったのですかーー!?」

「日本一か…遠い昔の話やな…」

「うそーー!吉宗くんすごすぎるー!剣道部で全然強く無かったなんて言って、あれは嘘だったんじゃない…もう、吉宗くんったら嘘ツキ…」

「いや、だからめぐみちゃん、さっきのは僕じゃなくて桃さんが…」

「もう、吉宗くん、かっこ良すぎ~!」

めぐみちゃんは、僕の言葉など聞かず、うれしそうに腕に顔をすりよせた…そんな僕に栄二さんも 

「すごいわ~!すごいじゃないの、ヨッチーちゃん…現役を離れてるとはいえ、日本一の剣士を打ち負かすなんて…あなたって、やっぱりグレイトな子だったのね~!もう、ますます痺れちゃったわ~ん」

ギラギラ燃えるような瞳で、強烈な熱視線を浴びせてきた…僕はそんな栄ちゃんビームにじりじりと焼かれながら、ふつふつと感動し始めていた…

(たしかに、桃さんの力は借りたけれど、勝ってしまったんだ…棒は日本一の剣士に…勝ってしまったんだ…)

ポーっとした顔で、大きな口を広げ、僕は浪速の武蔵、西条竜一の事を見ていたのだった…

 

 

そのころ…倉庫街から少し離れた、ひばり保育園では…

「あら、研二さん、お帰りなさい…」

「あっ、ただいま姉さん…」

「どうなさったの、顔色が優れないけれど…あれ!それにそのお鼻!?…」

「えっ!?…」

お慶さんの元婚約者、沢村研二は園長である姉に言われ、玄関横にあった鏡に目をやった…

「あっ!…」

そこには、栄二さんの頭突きで、鼻を腫れあがらせた無様な容姿が映し出されていた…

「うぐっ…」

沢村研二はその瞬間、喫茶慶での事を思い出し、悔しそうにぐっと唇をかみしめた…

「ひどい腫れ方じゃないの、とにかく急いでお薬をつけないと…」

園長はそういうと、あわてて部屋の中へ薬箱を取りに入っていった…沢村はそんな園長の後ろ姿を恨めしそうに見た後、ふっと、下駄箱にポツンと一つだけ残っている、小さな赤い靴に目を移した…

「あれ?…この靴は…」

沢村はそっとしゃがみ込むと下駄箱の上に張られた、園児の名前に目をとめ、再び怒りに満ちた表情へと変わっていった…

「何をなさっているの研二さん、薬箱を用意したから、早く中へお入りなさい…」

「あっ、はい姉さん…」

明りのついた教室に足を踏み入れながら、沢村は鋭い目つきで、

「姉さん、あの靴、たしか…」

「ああ、ユキちゃんの靴ね、あの子のママ、そうだ貴方の婚約者ね…ふふ、それがまだお迎えに見えてないのよ…」

「まだ、来てない?…」

「ええ、もう大丈夫だけれど、ユキちゃんお熱を出してしまってね、奥で眠っているのよ…」

園長はそう話しながら、薬箱から消毒薬をとりだすと、それを綿にしたし、沢村研二の鼻の周りの血をそっとふきとった

「ひどいわね、本当にどうなさったの?…こんなに腫らして…」

「あっ、ちょっと木の枝にぶつけてしまって…」

「本当?…気をつけて下さいね…」

「はい…」

「これで大丈夫、明日も痛むようだったら、お医者さんに行った方がいいですよ…」

園長はそう言うと、薬箱の中から体温計だけを取り出し、そっとふたを閉じた…そして静かに立ち上がると

「さあ、それじゃ私、ユキちゃんのお熱、計りに行ってきますね…そうそう、もうじきあの子、私の姪っ子になるんですからね、うふふふ…」

優しく微笑みながら、ユキちゃんが眠っている奥の部屋へと入っていった…沢村研二はそんな園長の後姿をじーっと氷のような視線で見つめていたのだった…

続き
第95話 西条竜一という男 へ

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2009年8月18日 (火)

第93話 めぐみちゃんの唇…

「めっ、めぐみちゃん…!!」

彼女の姿を見た瞬間、僕の両目から、涙が、どぶぁーっとあふれ出した…

「めぐみちゃん…めぐみちゃん…」

僕は必死に彼女の元へ近寄ろうとしたが、今までの激闘の影響から、足がもつれてその場にコロッと転がってしまった…

「めぐみちゃん……」

それでも必死に体を起こした僕にめぐみちゃんが

「吉宗君!!」

大声で叫びながら、飛びついて来た…僕は生きて再び彼女に会えたうれしさから、満面の笑みを浮かべながら 

「勝った…僕、勝ったよ…めぐみちゃん、勝ったよ…」

「うん、すごい…すごかったよ…かっこよかったよ、吉宗君…」

「よかったー、めぐみちゃんを助けることが出来た、本当に良かったーー」

「ありがとう…吉宗君、ありがとう…」

めぐみちゃんは僕の胸に顔を寄せながら大粒の涙をこぼしていた…、そんな彼女を僕は一生懸命にぼろぼろの体で抱きしめたのだった…

 

少しして僕は、ハッと大切なことに気がついた

(そ、そう言えば、めぐみちゃん…あの男にひどい目に!…)

そう思った僕は、優しく彼女の肩を抱いて

「可愛そうに…酷い目に合わされて……」

「えっ?…」

「ううん、何も言わなくていいのらよ…いいのらよ…」

身も心も傷つけられてしまった彼女の悲しさを思い、再びボロボロと涙を流していた…

めぐみちゃんは不思議そうに首をかしげると、ハッと明るい表情をうかべ

「吉宗君?…私…」

真剣な顔で話しかけてきたが、僕はあわてて彼女の口を押さえると

「ううん、いいんら…、何も言わなくていいんら…たとえ野獣に花園を踏みにじられたって、めぐみちゃんは、めぐみちゃんなんらから…」

「花園を踏みにじられる?…」

めぐみちゃんは再び不思議そうに僕を見た後、ケラケラと笑い始めた…

「違うよ吉宗君…」

「えっ?」

「さっき、あの人が言ってた言葉でしょ…あれ全部嘘だよ…」

「えっ、嘘?…」

めぐみちゃんは再びケラケラと笑うと

「私、あの人に、変なことなんて、何もされて無いんだよ…」

「えっ?…らって、めぐみちゃんの処女を?…」

「やっ、やだ!もう!!…」

バシッ!!

めぐみちゃんは急に真っ赤になると、僕の顔面に強烈な張り手を見舞ってきた

「ぐわっ…」

僕は鼻血を噴出しながら、その場に仰向けに倒れた…

 

「あっ!…ごめんなさい、つっ、つい…だって、吉宗君、変なこと言うから…」

「変なことって、らって…あの人が…」

「あの人の言葉は全部嘘…」

めぐみちゃんは倒れている西条を指差すと、

「バスの中に連れ込まれた時、私、正直にもう駄目だって、そう思った…最初はあの人、すごい血走った怖い目だったし…」

「怖い目…」

「うん…、でもね、私バスの後ろの席に追い詰められながら思ったの…命がけで助けに来てくれた吉宗君のためにも、私も頑張って闘わなきゃって…私だって命がけで身を守らなくちゃって…それでね…」

めぐみちゃんは、照れくさそうにうつむくと

「それで、私、あの人に向かって、思いっきり叫んだの……この体は、吉宗君以外にはさわらせない!絶対にさわらせないんだから!…死んでも、さわらせないんだからって…」

 

「めっ、めぐみしゃん!…」

僕は鼻水まみれの顔で、真剣に彼女を見つめた…

「えっ、あっ!…やだ…私……、だって、あの時は必死だったから…」

「めぐみしゃん…うっ、うれしいのら…そこまで僕の事を…うれしすぎるのら…うぐぅ、うぐうぉ~!」

僕は感激のあまり、ぐしゃぐしゃの顔で、泣き崩れていた…

「やだー、ま~た、そんなに泣いて、さっきとはまるで別人じゃない…」

「さっき?…」

「あの人と闘っていた時の吉宗君よ、すっごくかっこよかったのに…ふふふ…」

 

「あっ!?」

僕はめぐみちゃんの言葉で、ふっと桃さんの事を思い出した…そしてあわてて首を横に振ると

「ちっ、違うんだ…めぐみちゃん、さっきの僕は、僕であって僕じゃないんだ…」

「吉宗くんじゃない?…」

「うん、うん…あれは桃さんなんだ、桃さんが僕に憑依して…」

「桃さん?憑依?…」

「そう、桃太郎侍さんが、僕に憑依したんだ、それで、あんな風に…」

「桃太郎侍!?…」

めぐみちゃんは、しばらくの間、僕を見ていたが、突然目を三日月のように細めると

「きゃはははは…何言ってるの、面白~い…吉宗君ったら、桃太郎侍が憑依しただなんて、おもしろすぎ~…きゃははははは…」

大声で楽しそうに笑い続けた…

「いや、笑ってるけど、本当なんだって…本当に桃さんが…」

「吉宗君らしい…」

「えっ!?…」

「本当はすごい力があるくせに、そんな冗談言ってごまかしたりして…でも、そんな謙虚な所がまた、すご~くいい所なんだよね…ふふふ…」

めぐみちゃんはうれしそうに微笑みながら、僕の腕に手をまわしてきた…

「いや、謙虚じゃなくて…」

そんな時、再び僕の耳に、桃さんの野太い声が響いてきた…

(倅殿よ、良い良い…確かにワシの働きも大きかったが、それはそなたの真実の愛の力があったればこそじゃからのう…) 

(桃さん!…)

(さーて、これで、ワシの役目も終わった…そろそろ帰るとするかのう…)

(帰る?…)

(うむ…その愛する女子と、末永く睦めよ、倅殿…)

(桃さん!)

(でわ、いざ、さらばじゃ!)

その声と同時に僕の体から、何かがぐっと抜け出ていくのを感じた……

(さらばじゃ…倅殿よ…倅殿よ…倅殿よ…)

桃さんの野太い声は僕にそう告げると、静かに遠さかって行ったのだった……

 

(ありがとう…ありがとうございました…桃太郎侍さん…)

  

「吉宗くん?…ねえ、吉宗くんってば…」

「えっ!…あっ!?」

気がつくと、めぐみちゃんが、不思議そうに僕を見つめていた

「どうしたの?遠くの方を見つめちゃって、ぶつぶつと…」

「あっ、だから、桃さんが…」

「また、それ…しつこいですよ…」

めぐみちゃんはそう言いながら口をぷっと膨らますと

「私が一生懸命、バスの中での続き話してるのに、また桃さんがなんてふざけて…本当は心配してなかったんだ、私のこと…」

「えっ、違う…そんなことない、すっごく心配で心配で…」

僕は大慌てで手を振った…めぐみちゃんはしばらくじーっと僕を見た後、再び興奮した様子でさっきの続きを話し始めた…

 

「そう、私がバスの中で必死に叫んだ後…」

「叫んだ後?…」

僕も真剣にめぐみちゃんを見つめた…

「うん…私が叫んだ後、あの人しばらく真剣に私の事を見ていて…それから急に笑い始めたの…」

「わっ、笑う?…」

「うん…、急に笑い出したと思ったら、今度はバスの入り口に腰掛けて、一人静かにタバコを吸い始めて…それでも私、すごく怖かったから、後ろの席からじーっと、あの人のこと見てたんだけど…」

めぐみちゃんは再び倒れている西条を見ると

「今度は急に悲しそうな顔をして…黙って窓の外を見ていたの…」

「悲しそうな顔?…」 

「うん…それどころか、あの人、三波先生に首を絞められている吉宗君の事を見たとき、あわてて止めに行こうとしたんだよ…あのバカ、まじで殺すきや…そう言いながら…」

「えっ?…僕を…どっ、どうして?…」

「わからない、でも、吉宗君の言ったとおり、あの人、本当は悪い人じゃないって、私も思うの…」

「………」

僕は、静かに倒れている西条を見た…

 

「でも、どうして…この人はめぐみちゃんを犯したなんて、あんな嘘を…」

「わからない…」 

めぐみちゃんは不思議そうにつぶやいた後、照れくさそうにそっと僕の腕に顔をすり寄せて来た…

「でも、うれしかったな…、吉宗君が言ってくれた、あの言葉…うふふっ…」

「僕の言葉?」

「うん、私に何があっても、真実の愛は変わらないって…」

「そっ、そんなことを僕が?…」

「あの時の吉宗君…すごーくかっこよかった…私、もっともっと大好きになっちゃった…」

そう言いながら、めぐみちゃんは熱い瞳で僕を見つめてきた…

 

「め、めぐみちゃん…heart04

「吉宗くん…heart04

僕たちは、ほんわか~っとしたバックを背景に、じーっと潤んだ瞳で見つめ合っていた…そして、気がつくと彼女は美しいピンクの唇を僕に向けながら、そっと目を閉じていたのだ…

 

(えっ、めっ、めぐみちゃん…これって、もしや、キス!……)

僕の心臓はドキドキと爆音を鳴らし始めた

(つっ、ついに僕とめぐみちゃんが、キッ、キッスを…、)

心臓の爆音を響かせながら、再び彼女の事を見た…そこにはやはり目を閉じて頬を染めているめぐみちゃんが…

 

(キスだ…やっぱりキッスなのだ…、ここは、かっ、かっこ良く決めなくては…)

そう思った僕は、あわてて目を閉じると、重大な事を忘れたまま、彼女の可愛い唇に、震える僕の唇を近づけていった…と、その時だった…

 

「お、おおお…俺も、大好きになったっすーーーー!…」

 

「えっ!?」

「!?」

僕とめぐみちゃんはあわてて目を開いた…そこには、ボロボロに欠けた歯でうれしそうに笑っている金髪の鉄の大きな顔があったのだった…

「うわーーー!?」

僕は驚きのあまり、もんどりうって倒れた…忘れていた重大な事、それは僕の隣に、あの鉄がいたという、最悪の事実だったのだった…

「いやだー、鉄君も…、いっ、いたんだよね…」

めぐみちゃんも、あわてて僕から離れると、顔を真っ赤にして鉄を見た…

 

「でへへへ~、今…兄貴と、めぐみさん、チューしようとしたでしょ……ねえ、ねえ、チューしようとしたでしょ…」

「なっ、何言ってるのよ、鉄君、ちっ、違うってば、ただ、眠くて目を閉じただけで…」

「じゃ…じゃあ、兄貴は?…兄貴は…な、な、何で…目閉じてたんっすか?…ねえ、ねえ…」

「あっ、あの、それは…僕も闘いで疲れて眠かったから…ははは…ほら、あの人との闘いで…」

そう言いながら、僕の横で倒れている西条の方を指差した…がっ!!

「あれ!?…」

見るとそこには、今まで倒れていたはずの西条の姿が消えていたのだ…

 

「いっ、いない!…あの人が、いない!!」

僕はあわてて後ろを振り返り、思わず青ざめてしまった

「ぐわっ、いっ、いつの間に!?」

そこには再び木刀を握り締め、恐ろしい顔で僕を見ている悪鬼、西条竜一の姿があったのだった…

続き
第94話 吉宗くんは日本最強 へ…

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2009年8月 6日 (木)

第92話 吉宗くん曇り無き剣

「よくもめぐみちゃんを…許さん、貴様は絶対に、許さん…」

僕は怒りにパンチパーマを逆立てながら、角材を上段に構え、ぐっと西条を睨みすた…

「ほう、上段とはのう…、我も棒振りの経験があるようやの……」

西条は不気味に笑いながら、手にしていた木刀を、再び僕に突きつけた

 

「許さない…絶対に許さない!!」

「きえぇーーーーーーっ!」

叫ぶと同時に、僕は力いっぱい西条めがけて打ちかかっていった…しかし、西条は僕の気合の打ち込みにまったく動じる様子を見せず、

「フン!!…」

ガツッ!

鼻で笑いながら、手にしていた木刀で、軽く僕の一の太刀を交わすと、すさまじいスピードの返し技で、僕の喉元めがけて強烈な突きを打ち込んで来た…

「うぐぁー!」

あまりに速い突きに、完全にやられた!…そう思った時、なぜか僕の体が無意識に反応、間一髪でその突きを交わしたのだ…

あわてて西条の間合いから飛びのいた僕の耳に、桃さんの野太い声が響いてきた…

(気をつけよ、この者、そうとうの使い手であるぞ…)

「えっ?…」

 

「ほう、今のワイの突きを交わすとは…我もなかなかやるやないか…」

西条は一瞬うれしそうに笑うと、今度は木刀を両手で握り、僕に向けぐっと正眼の構えを見せた…

(うっ…、構えにまったく隙が無い…この人、本当に強い!…どっ、どこから攻めれば…桃さん…桃太郎侍さん…)

僕はとっさに、憑依している桃さんに訴えかけた…すると再び僕の頭に、野太い声が…

(倅殿…まずは落ち着かれよ…気を鎮め、無の境地になるのじゃ…)

「無の境地?…」

(そうじゃ、あの者は強い…まずそなたの心の雑念を振り払い、無になるのじゃ…)

「僕の雑念?…」

 

「何をごちゃごちゃ一人でしゃべっとるんや?…ワイを倒して、お前の女を助けるんやなかったんか?…」

「!?」

「そうや、考えてみたら、あの女はもうお前の女とちゃうのう…ワイの女や…はははは…」

「うぐぉ…おのれーーーー!」

僕は西条の言葉で、再び怒りの炎を燃え上がらせた…

 

(この男が、めぐみちゃんを…大切な…めぐみちゃんを…)

僕の脳裏に、この悪鬼西条によって、美しい体をメチャメチャにいたぶられている、愛する彼女の光景が浮かんで来た…

(めぐみちゃんが…この悪魔によって、汚されてしまった…汚されてしまった…)

そう思うにつれ、だんだん僕の西条に対する怒りは、真っ赤に燃えあがる憎しみへと変わっていった…

(いかん!…邪念を捨てよ…!)

桃さんの声がかすかに届いていた、しかし僕は

「よくも…よくも、めぐみちゃんを…きえぁーーーーーーーーーー!!」

憎しみを抑えきれず、西条に向かって再び打ちかかっていた

「きえぁーーーーーーーーーーーーー!」

「うおぉー!」

ガツッ!

僕の角材と西条の木刀が力いっぱい激突、二人はそのままつばぜり合いとなって、顔を突きつけあった…そんな最中、西条は不適な笑みを見せ 

「悔しいか…ワイは我の女を犯した男やで、悔しやろ…悔しかったら、もっと怒り狂ってみい…」

「ぐおーーーー、おのれーー、絶対に許さない!!」

僕は目を血走らせながら、力任せに角材を押し付けた…

 

(いかん!力で勝てる相手では無い…邪念を捨てよー!!邪念を捨てよーーーー!!)

 

「はっ!?」

桃さんの大きな声に、僕は一瞬我に帰った…と、同時に今度は目の前の西条が

「ぐおぉーーーーーー!」

大声を発しながら、すごい力で僕の事を突き飛ばし、すさまじい速さの打ち込みを僕の脳天めがけて仕掛けてきた

「うわっ!」

脳天に一撃、今度こそ終わった…そう思った時だった…、再び無意識に僕の体が、まさに紙一重でその剛剣を交わしたのだ

ブーーーーン

西条の剣がすさまじい音を立てて空を切った… 

「ほう、またしても交わしたか…」

 

(馬鹿者!…あと半歩踏み込んでいたら、そなたの脳天はパックリ割られて、脳みそが四方八方、飛び散っていた所じゃ…)

「はあ、はあ…」

僕は桃さんの声に、思わず青ざめていた…

(よいか、まずは邪念を捨て去るのじゃ…でないと、わしも働くことができぬ…)

「桃さんが働く?…」

(なんじゃ、それでは御主、今までの紙一重で交わしていたのが、ワシの力だと気づかなかったのか?…)

「あっ!?」

 

(良いか、そなたの純粋に愛するものを守りたい、その心がワシを現世に呼び出すという奇跡を生み出しているのじゃ…その御主が邪念に満ち溢れ、憎しみまみれになっていては、ワシも動けんのじゃ…)

「邪念?…憎しみ?…」

(そうじゃ、恨み、憎しみの心を捨て、無の境地になるのじゃ…)

「でも、あの男は、愛するめぐみちゃんを…」

僕は再びぐっと西条を睨んだ…

 

「何や?さっきから我は何をべちゃくちゃしゃべっとるんや?…」

「うぐぉ…」

「そうそう…一つ、おもろいこと教えたるは、我の女な…あれは処女やったで…くっくく…」

「ぐおーっ!!」

僕の心に再び憎しみの炎が… 

(馬鹿者!相手の言葉に心乱すでない、邪念をすてよ!!)

「でっ、でも…めぐみちゃんが!…めぐみちゃんの美しい純潔が…」

(それがどうしたというのじゃ?…)

「えっ!?」

桃さんの吐き捨てるような声に僕はハッとした…

(美しい純潔がどうしたというのじゃ?…そなたの愛の心は、その程度のものだったのか?…)

「…!?…」

(その程度のことで、心乱すほど、そなたの愛は薄っぺらだったのか?…んっ?…)

桃さんの心の声に、僕は目を大きく見開いた…、同時に、めぐみちゃんとの面接での出会いから、縁日での涙の告白…仕事を終えて戻った時の優しいめぐみちゃんの笑顔…幸せな一コマ一コマが、僕の脳裏にほんわか~っと、蘇って来たのだった…

 

「そうだ…そうだよ…たとえ、目の前の狼にひどい目に合わされたって、めぐみちゃんは、めぐみちゃんじゃないか…」

(分かったか?倅殿よ…)

「そう、めぐみちゃんは、めぐみちゃんなんだ…何があったって、僕の彼女への愛の深さは絶対に変わらないんだ!」

(そうだっ!…、天に誓って絶対に変わらないんだ!!…)

そう思った瞬間、今まで逆立っていた僕のパンチパーマが、すーっともとの6ミリ4ミリへと戻っていった…そして気がつくと僕は、澄み切った青空のように清らかな表情で、じっと目の前の西条を見つめていた…

 

「なっ、何や我…急に…、おい、ワイは我の女を犯した男なんやで…」

西条は不適に笑いながら、ふたたび僕を挑発してきた…しかし、僕はキラキラ輝く瞳のまま

「そんな事は、たいした問題ではありません…」 

「なっ、なんやと!?」

「たとへ貴方が、彼女にどんな事をしたとしても、僕のめぐみちゃんに対する真実の愛は変わらないんです…」

「あー?」 

「それに、桃さんに気づかせてもらったんです…大切なことは憎しみではなく、真実の愛だということを…、だから僕は真実の愛のため、彼女を助けるためだけを考えて…あなたと闘います!!」

僕はそう言うと、角材を正眼に構え、その剣先を静かに揺らしながら、じっと西条を見た…

「なっ、何を綺麗ごとを、そんな物嘘や!…自分の女を犯された相手に、憎しみを持たんなんぞ、できる訳が無い…我は嘘つき野郎や!!」

どうしたことか、僕のキラキラ輝く瞳に、西条は異常なくらい動揺し始めていた…僕はゆっくりと剣先を揺らしながら、

「真実の愛の力には…憎しみなど適わない…そう適わないんです…」

「なっ、何!?…うぐっ…」

西条はその直後、ふっと悲しげな目を僕に向けた… 

「やはり、あなたは悪い人では無い…あなたの目は、本当の悪い人の目ではありません…」

僕は静かに西条に向かって語りかけていた… 

(うむ、見事じゃ倅殿よ…これぞ無の境地…後はこのワシに任せよ!!)

桃さんの声に、僕はそっとうなずいた…

 

西条は首をぶるぶると横に振ると、手にしていた木刀をぶんぶんと振り回した、そして再び鬼のような顔で僕を見ると

「ワイが悪い人か…そうでないか…我のようなガキに解ってたまるか…解ってたまるか…」

ぐっと眉間にしわを寄せると、今度は上段にその木刀を構えた…

「遊びは終わりや…この一撃で、今度こそ我を地獄に送ったるわい…」

 

「…めぐみちゃんを救うため…僕はあなたを倒す……」

  

「こっ、このガキがーーーーーーーーー!!」

西条は大声で怒鳴りながら、襲い掛かって来た…そしてその上段からすさまじい速さの剛剣が僕の頭めがけて振り下ろされた

ガツッ!!

鈍い木刀の音が倉庫街の夜空に響いたあと、一瞬あたりはシーンと静まり返った…

 

「なっ、何っ!?」

完全に僕の脳天に直撃したと思われた西条の剣先は、気がつくと地面に向かって打ちつけられ、そして、そこに居たはずの僕の姿が消えていたのだ…

「そんな、アホな…ワイの渾身の一撃が!?…ぐおっ!?」

西条はあわてて、振り返った、その一瞬だった

「きえぁーーーーーーーーーーーーー!!」

夜空に響きわたる奇声と共に、電光のような速さの僕の突きが、西条の胸元をめがけて襲い掛かっていた

グヴァシーーーーン!!

「うわあぁーーーーーーーー!」

夜空に西条の唸り声が響いた…

 

 

 

 

「兄貴ーーーーー!!」

離れた所から、金髪の鉄の歓喜の雄たけびが、僕の耳に飛び込んできた…

「兄貴、兄貴…やったー、すげえ、すげえよ…兄貴!!…」

「えっ!?」

僕は鉄の声にハッと我に返って、あたりをキョロキョロ見渡し、そこで信じられない光景を目にした…

「えっ?えっ?…えーーーーーっ?…」

何と僕の足元には、無意識に打ち出した僕の突きによって、白目を向いて気を失っている西条竜一の体が、無言で横たわっていたのだった…

 

「なっ、何ーーーーーーーーーーー!?」

僕は突きの構えのまま、大声で驚きの声を上げていた…

何と僕は無の境地に入った直後、あのスキンヘッドの熊井さんですら適わなかった、悪鬼西条竜一を、一撃で倒してしまっていたのだったのだった…

 

「兄貴ー、すげえ…すごすぎる……やっぱ俺の兄貴だーー!!」

鉄が涙と鼻水まみれの顔で、僕に擦り寄ってきた 

「か、勝った…僕は勝ったのか?…」

「勝ったんすよ…、兄貴…勝ったんっすよ…」

「勝った…本当に勝った…」

僕は張り詰めていた緊張から、その場にしゃがみこんだ…そして、 

「あっ!?…め、めぐみちゃん…めぐみちゃんは?…」

あわててひばり保育園のバスに目を向け、ハッと驚きの顔を浮かべた…

「あっ!?…」

「………」

そこには、バスの入り口で、じっと泣きながら、無言で僕を見つめている、めぐみちゃんの姿があったのだった…

続き
第93話 めぐみちゃんの唇kissmarkへ…

イラストカットは近日アップします^^

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2009年7月29日 (水)

第91話 桃さん登場!

「きっちり地獄へ送ってやるよ!…」

イケメン三波はそう言うと、手にしていた角材を僕の脳天めがけて振り下ろした

(うぐぁーー、せっかく戻って来れたのにー!?)

この世の最後を覚悟した、その時だった…

ピュ~ゥ~~!…ポンポンポンポン!…、ピュ~ゥ~~!……、ポンポンポンポンポンポン!…

何処からか、美しい笛の音と、太鼓の音が僕の耳に響き始めた…

(なっ?…なんだ?……ん!?)

「あっ、あれー!?」

なっ、何と、それと同時に、振り下ろされたはずの角材が、僕の頭の真上でピタッと止まっていたのだ……おまけによく見ると、三波はまるで時間が止まったように、鼻の穴を大きくおっぴげた状態で固まっていた…

(え?…え?…どっ、どうして?…えーーー?) 

ピュ~ゥ~~!…ポンポンポンポン!…、ピュ~ゥ~~!……、ポンポンポンポンポンポン!…

そんな中、笛と太鼓の音色は、どんどん僕のほうに向かって近づいて来ていた…僕はあたりをキョロキョロと見渡し

「えっ!?」

思わず、顔を引きつらせた…なっ、何と僕の目に、超ど派手な着物姿に、鬼のお面をかぶったおじさんが、頭の上に薄い衣をまとって、くるくると舞いながら近づいて来るではないか…

「なっ、何だ~!?」

ピュ~ゥ~~!…ポンポンポンポン!…

着物のおじさんは僕の驚きなど関係なしに、くるくると踊り続けたと思うと…、ポン!!……最後の太鼓とともに、ピタッと足を止めた…、そして鬼のお面をさっと、はずし、ギロッと大きな目玉で僕を見た…

 

「えっ?…あっ!あれーーっ!…あっ、あなたは!?…」

僕の脳裏に幼い日の記憶が蘇ってきた… 

(ふっふふ…父上から、頼まれて来たのだが…ほほう、どうやら私のことを覚えていたようだね…)

派手な着物のおじさんは、キリッと太い眉毛にキラキラ光る大きな目、すっと通った鼻筋に、への字に結んだ口…、その超男前のソース顔を僕に近づけながら、ニンマリと微笑んだ…

「あっ、あの、あの…貴方は、貴方は?本物の貴方!?…」

(その通り…私は、あの、貴方だ…本物の貴方なのだよ…)

着物のおじさんは二本の指を額に突き立てると、キリッと眉間にしわをよせた、そしてかっこいいポーズをささっと決めながら一言、

(桃から生まれた、桃太郎!…)

大きな声で、そう名乗ったのだった…

Momosan  

「やっ、やっぱり、桃太郎侍!!」

僕は驚きのあまり、大口を開けて叫んだ…

天国のお父ちゃんが最後に告げた桃さんの正体、それは、僕が小さい頃からあこがれていた伝説の剣士、桃太郎侍だったのだった…

「父ちゃん言った桃さんって…そっ、それじゃ、あなたは桃太郎侍の霊……あれ?」

そう言いながらふっと大切な事に気が付いた…

「…なっ、なんで?…どうして?…だって、桃太郎侍ってテレビのフィクションでしょ!?だったら霊の訳ないし…そ、それに、高橋秀樹さんだって、全然現役でまだテレビで活躍してるのに!?…なっ、なんで?…」

(こ、これは夢か?…天国のお父ちゃんとの出会いといい、そうだ、これはきっと夢を見てるんだ…)

桃さんはそんな僕に、その超男前の顔をぬっと近づけると

(夢ではない息子殿よ…貴殿の愛する女子を守りたいという、誠、真実の愛が、このわしを現世に呼び寄せたのじゃ…これは愛の力による奇跡なのじゃ…)

「愛の奇跡?…ぼっ、僕の…真実の愛が?…フィクションのあなたを?…」

(そうじゃ…真実の愛の力とは、それだけ凄いものなのじゃ…)

桃さんはうれしそうに微笑むと、ささっと両手でかっこいいポーズをとった、そしてぐっとその男前の眉間にしわを寄せると

(さあ、このような話をしておる場合では無い…さっそく、貴殿の力にならねば…)

「僕の力?…」

(では、参るぞ!)

「参るって、えっ?ちょっと…」

突如、僕をめがけて突進して来て…ドガッ!…大きな衝撃と共に、なっ何と僕の体の中に、にゅーっと入り込んで来たのだ…

「うぐあーー、何だ~!…」

その直後、僕に大きな異変が!…、何と得たいの知れない底知れぬパワーが、体中にみなぎり始めたのだった…

「うおおおおおーーーーー!」

あふれるパワーを押さえきれず、僕は雄たけびを上げた…

 

「あっ!、兄貴?…吉宗の…兄貴?…」

僕の声に、大口を開け倒れていた鉄が、ぷるぷると首を振りながら立ち上がった、そして僕の脳天をめがけて振り下ろされた、三波の角材に気がつき思わず大声で叫んだ!

「兄貴、危ない!!」

鉄の叫びと同時に、今まで僕の頭上で静止していた角材が、再び音を立てて落下してきた

「うわぁーー!」

瞬間、僕の両腕が無意識に、すさまじいスピードで反応した…

 

ガシッ!!

  

「なっ、何!?…」 

目の前の三波は鼻の穴をおっぴろげたまま、僕を見ていた…

「えっ?…」

完全に頭を、かち割られた、一瞬そう思ったにもかかわらず、まったく頭は痛くない…僕は三波を見た後、ハッと驚きの顔を浮かべた…

なっ、なんと僕は、振り下ろされた角材を脳天の真上で、まさに真剣白刃取りのように、みごとに受け止めていたのだった…

 

(えっ?…なんでー!?)

と、驚くのはまだ早かった…その直後、僕の口が勝手に動き出し、

「許さん!…」

そう叫びながら、すさまじい無意識パワーで、角材もろともイケメン三波を吹き飛ばしてしまったのだ…

「うわあーーーーーーーーーー!」

三波は大またをおっぴろげたまま天高く舞い上がると、そのまま地面に打ちつけられ、まるでぺしゃんこになったカエルのように、その場で動かなくなってしまった…

「うわー、おい、三波?…三波ーーー!?」

(どっ、どうして?…)

僕は驚きで自分の体ををキョロキョロ見回した…そこで、ハッとさっきの桃さんとの不思議な体験を思い出した…

(もしかして、これって憑依?…僕の体に、桃さんが…桃太郎侍が入っているのか?…)

 

「す、すげえ…兄貴…半端ねえ、すげえ…」

金髪の鉄が、涙を流しプルプル振るえながら、じっと僕を見つめていた…

「兄貴…、やっぱ、すげえよ~!…半端ねえ…すげえよ兄貴…」

「いやっ、鉄、違うよ、これは僕じゃない…僕じゃなくて桃さんが……あっ!?」

「そっ、そうだ…めぐみちゃん!!」

僕は彼女の危機に気がつき、あわてて保育園バスを見た…と、その直後、思わず青ざめた…

「うっ!…」

なんと、園バスの入り口に、うれしそうに笑いながら僕を見ている、悪鬼西条の姿があったのだ…

 

「ほう、三波がさっき言うとったが、ほんまやのう、兄ちゃんなかなか、やるやないけ…」

西条は片手に木刀を握り締め、ゆっくりとバスから降りてきた…

「め、めぐみちゃんは、めぐみちゃんはどうした!」

「お前の女か?なかなか、ええ味やったで…あそこもええ具合やったし、あえぎ声も可愛くてのう…くっくくく…」

「きっ、貴様…めぐみちゃんを…」

「おう、たっぷり楽しませてもらったわ…まあ、あの姉ちゃんも、ワイの一物がそうとう良かったみたいや、中で満足顔でボーっとしとるわ、はははは…」

「ぐおぉ!この野郎……」

僕のパンチパーマが、再び逆立ち始めた…

「何やその目は、性懲りずに、もっぺんワイにぶちのめされたいようやの…ただ、今度はさっきの様に甘くはすまさんで…、」

西条は片手で木刀をぶんぶん振り回すと、その先端を僕に向け

「今度はきっちり、いわしたるからの…」

恐ろしい悪鬼の目で睨みすえてきた…

 

「ひ~…もしかして、こ、これが…ぎ、銀二さんが言ってた、さっ、西条!?…」

後ろにいた鉄が思わず足をすくませた…

僕はそんな鉄を横目に、カエルのように倒れている三波の手から角材を拾い上げた…そしてそれをさっと上段に構えると

「貴様は絶対に…、絶対に、許さん!!」

ぐっと眉間にしわを寄せ、悪鬼西条を睨み据えたのだった…

続き
第92話 吉宗君、曇りなき剣 へ…

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